奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)発のスタートアップ企業LENZOが開発する独自アーキテクチャ「CGLA」が注目を集めている。PC Watchが同社のアーキテクトである中島康彦教授へのインタビューを実施し、謎に包まれていた技術の正体を詳報した。
LENZOとは——国産半導体界の新星
LENZOはNAIST発のディープテック系スタートアップで、AI・機械学習ワークロード向けの独自半導体アーキテクチャ「CGLA」を開発している。2025年にはテレビ報道でも取り上げられ、「NVIDIAに挑む国産半導体メーカー」として一般的な認知度も高まった。
同社のメンバーには、かつてソニー・コンピュータエンタテインメント(現SIE)でPS3向けプロセッサ「Cell Broadband Engine」の開発に携わった技術者が複数在籍している。CellはIBM・ソニー・東芝が共同開発した革新的なマルチコアプロセッサであり、その系譜を引く技術者集団の存在は自然と期待感を高める。
CGLAアーキテクチャの特徴——Cellとは無縁の独自設計
PC Watchの取材によると、LENZOのCGLAアーキテクチャはCell Broadband Engineとはまったく無関係の独自設計であることが判明している。中島康彦教授はPC Watchのインタビューで、CGLAがゼロから設計した全く新しいアーキテクチャであることを説明したという。
CGLAは「Coarse-Grained Reconfigurable Logic Array(粗粒度再構成可能ロジックアレイ)」の略とされ、FPGAに似た再構成可能な演算構造をより粗い粒度で実装したアーキテクチャとみられる。従来のGPUが多数のSIMDコアを均一に並べるアプローチを取るのに対し、CGLAはワークロードに応じてデータフローを動的に最適化できる柔軟性を持つ設計思想が特徴だ。
国産半導体として見る技術的意義
NVIDIAのH100/H200シリーズが生成AI向け演算の事実上の標準となっている現在、代替アーキテクチャへの需要は世界的に高まっている。米国の半導体輸出規制(対中規制)の影響もあり、各国で独自AI半導体の開発が加速している。
日本国内でも、政府の半導体振興策(経産省によるラピダス支援等)と連動する形で、LENZOのような大学発スタートアップへの注目が高まっている。Cell開発経験者という実績ある技術者と、NAIST中島教授の研究基盤が組み合わさった構図は、日本のディープテックエコシステムの可能性を示す事例として重要だ。
日本市場での注目点
現時点でLENZOは量産品をリリースしていないが、試作チップ開発フェーズが進行中とみられる。
- 競合との位置付け: 国内ではPFNのMNコアシリーズと並ぶ国産AI半導体の期待株。海外ではCerebras、Groq、SambaNova等の専用AIアクセラレータとポジションが重なる
- ターゲット市場: データセンター向けAI推論アクセラレータが主戦場とみられる
- エコシステム課題: NVIDIAはCUDAという10年以上の開発資産を持つ。新アーキテクチャが普及するにはソフトウェア対応の拡充が不可欠
筆者の見解
LENZOの取り組みは純粋に応援したい。CGLAアーキテクチャの方向性——再構成可能なデータフロー最適化——は、GPUの画一的なSIMD並列処理に対するアンチテーゼとして理論的には筋が通っている。
ただし、「NVIDIAに挑む」という文脈は慎重に捉える必要がある。NVIDIAの強さはCUDAエコシステムという蓄積にあり、PyTorchやTensorFlowがCUDAを前提に最適化されている現状では、性能優位があっても普及には長い道のりがある。LENZOが目指すべきは「NVIDIAを倒す」ではなく、「CUDAが苦手とする特定ワークロードで圧倒的な電力効率を実現し、そのニッチで確かな地位を築く」戦略的フォーカスではないか。推論特化、エッジAI特化、特定業界向け特化——こうした絞り込みの方が現実的だ。
NAIST中島教授の理論的バックグラウンドとCell開発経験者の実装力の組み合わせは本物だ。「謎の国産半導体」という煽り文句の外に、地に足のついた技術ビジョンがあることをPC Watchの取材は示している。量産化フェーズでの進捗を引き続き注目したい。
出典: この記事は 【今すぐ読みたい!人気記事】NVIDIAに挑む国産半導体LENZO、新アーキテクチャ「CGLA」の正体 - PC Watch の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。