Ars TechnicaのJonathan M. Gitlin記者が2026年5月15日に報じたところによると、Hondaは約90億ドル(約1.4兆円)規模のEV関連損失を計上し、同社創業以来70年以上にわたって初となる営業赤字に転落した。その一方でHonda CEOの三部敏宏氏は東京での記者会見でハイブリッド車を軸とした新戦略を発表し、市場の再建に向けた具体的なロードマップを示した。
なぜこの事態が起きたのか
Ars Technicaの報道によれば、米国市場を取り巻く政策環境の急変が引き金となった。連邦クリーンビークル税控除の廃止、充電インフラ整備向けの補助金削減、そして予測が困難な関税政策が重なり、2026年第1四半期の米EV販売台数は前年同期比28%減という急落を記録した。
この環境変化を受けてHondaはオハイオ州での計画EV3車種を白紙撤回。さらにSonyとの合弁で進めていたEV2車種の開発も中止した。これらキャンセルに伴う減損処理が90億ドルの損失につながった形だ。
ハイブリッド大攻勢——2030年までに15車種
三部CEOは「ハイブリッドモデルは引き続き環境課題に対処するための鍵になる」と述べ、2030年までに新世代ハイブリッドパワートレインを搭載した15車種を投入する計画を表明した。その大半は北米市場向けとなる。
Ars Technicaが伝えた技術目標は以下のとおりだ。
- 燃費10%向上
- システムコスト30%削減
- フルサイズSUV投入: Toyota SequoiaやChevrolet Suburbanが占めるDセグメントに参入
- Acuraハイブリッドも同時展開: 北米プレミアムブランドのAcura向けハイブリッドSUVも準備中
新ハイブリッドラインナップの第一弾は、記者会見で公開されたセダン(次期Accordとも見られる)で、2027年デビューを予定している。
工場・サプライチェーンも一体改革
Hondaは米国工場の全てをハイブリッド生産対応に改修する計画も明らかにした。EV電池の製造を目的としてLG Energy Solutionと設立した合弁工場も、一部ラインをハイブリッド用トラクションバッテリーの生産に転換する。EV向けに確保したサプライチェーンをハイブリッドに転用する、事業全体の構造転換だ。
地域別の異なる戦略
Ars Technicaは地域差にも注目している。北米が大型ハイブリッド車を中心とするのに対し、日本市場はEV軽自動車の普及を軸に据える。中国では現地の速度感に合わせた新型EVを継続投入する方針で、インドも重要市場として位置づけている。北米一辺倒ではなく、地域の実情に応じた複数戦略の並走が特徴だ。
日本市場での注目点
今回発表された15車種のハイブリッドは大半が北米向けのため、日本市場への直接的な影響は限定的だ。ただしHondaのハイブリッド技術自体はグローバルで共有されるため、コスト30%削減という目標が達成されれば、将来的に日本仕様車の価格競争力にも波及する可能性がある。
国内ではe:HEVシリーズが展開中で、2026年時点では新型ステップワゴンやCR-V e:HEVなどが現行ラインナップの中心。今回の北米向けフルサイズSUVが日本に導入される見通しは現時点では示されていない。
競合として名前が挙がったToyotaは、THS(Toyota Hybrid System)を長年にわたり磨き続けてきた。Hondaが「コスト30%削減」を達成できるかどうかが、北米ハイブリッド市場での勝敗を左右する鍵になりそうだ。
筆者の見解
90億ドルの損失という数字は衝撃的だが、Hondaの動きを単純な「EV敗北」と見るのは早計だろう。ハイブリッドはEVほど電池材料を必要とせずサプライチェーンリスクが低い。GM、そしてHondaと、北米での主要プレイヤーがハイブリッドに軸足を移している事実は、少なくとも現時点での「現実解」がどこにあるかを示している。
問題の本質は政策リスクだ。米国の補助金・関税政策が短期間でここまで激変するとは、数年前には想像しにくかった。技術の優劣だけでなく、政策変動への耐性がものを言う時代に入ったと見るべきで、その意味でHondaのハイブリッド回帰は硬直した戦略の失敗ではなく、合理的な適応とも言える。
一方で、燃費10%向上・コスト30%削減という目標値の実現性は今後の開発次第だ。2027年に登場する第一弾セダンの評価が、この大転換が正解だったかを証明する最初の試金石になる。
出典: この記事は Honda shows off new hybrids for America as it absorbs $9 billion EV loss の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。