英国の研究チームが実施した大規模な太陽光施設調査をもとに、Ars TechnicaのJohn Timmer記者が2026年5月15日に報告した。石炭燃焼などに由来するエアロゾル(微粒子)が、世界の太陽光発電の潜在的発電量を年間数百テラワット時(TWh)規模で損なっているという研究結果が、再生可能エネルギーの普及戦略に新たな視点を投げかけている。

なぜこの研究が注目されるのか

これまで石炭火力の問題といえば、CO₂排出や健康被害が主な論点だった。今回の研究が画期的なのは、石炭燃焼による汚染が「隣接する太陽光パネルの発電量を直接削る」という見落とされがちなメカニズムを定量化した点にある。

再生可能エネルギーへの転換を進める国や企業にとって、「石炭を使い続けることが、新設した太陽光の効果を部分的に帳消しにしている」という事実は、設備投資計画や政策設計を見直す契機になりうる。

海外レビューのポイント:研究の核心と驚くべき数字

Ars Technicaの報告によると、研究チームは既存のデータベース・AIによる衛星画像解析・クラウドソーシングの位置情報を組み合わせてグローバルな太陽光施設目録を構築。実測発電量と理論値(雲・エアロゾルがない場合)を比較した。

2023年の主要データ(Ars Technica報告より)

  • 潜在発電量の25%超が失われた
  • 損失内訳:雲による損失20%超、エアロゾルによる損失約6%
  • エアロゾル損失だけで500TWh超=1GW級石炭火力84基分の年間発電量に相当

さらに5年間の分析では、新設太陽光容量が平均250TWh/年の追加発電力をもたらす一方、エアロゾルで年間75TWhが失われており、新規投資の約3割が汚染によって無効化されている計算になる。

石炭の関与は「半分近く」

研究が示したエアロゾルの内訳では、石炭燃焼由来の二酸化硫黄が約48%を占め、炭素系物質(主に化石燃料由来)が18%。合計で7割近くが化石燃料に起因する。

際立つ中国の状況

Ars Technicaによると、中国ではエアロゾルが太陽光発電量を7.7%削減し、年間成長の3分の1から半分を相殺している。「中国の太陽光発電ロスの空間分布が、石炭火力発電所の分布と一致する」という点は特に示唆深く、中国のエアロゾル損失の30%が石炭燃焼に直接起因すると研究チームは推定する。対照的に米国では、太陽光が南部・西部に集中し石炭は東北部に多いため、損失は中国の半分以下にとどまる。

日本市場での注目点

越境汚染の影響は無視できない

日本は地理的に中国の石炭火力発電所の風下に位置することが多く、春季を中心に中国由来のPM2.5が飛来することが知られている。今回の研究が示すように、これらのエアロゾルが国内太陽光パネルの発電量を削減している可能性は十分にある。日本の再エネ計画においても「越境汚染による発電ロス」を正確に織り込む必要性が生じるかもしれない。

AI・データセンター需要との関係

生成AIブームに伴うデータセンターの電力需要急増が国内でも議論される中、太陽光発電の実効発電量を過大評価していると電力収支の見通しが狂うリスクがある。供給力の試算にエアロゾルによるロスを組み込む精緻化が求められる局面だ。

政策的示唆

日本のFIT設計や再エネ目標においてエアロゾルロスを定量評価に加えることに加え、「中国の脱石炭が日本の太陽光効率向上にも間接的に貢献する」という視点は、国際環境政策を考える上で新鮮な論点を提供している。

筆者の見解

今回の研究が明らかにしたのは、エネルギー転換の難しさを一層浮き彫りにする事実だ。石炭を稼働させ続けることは、新設した太陽光の投資対効果を物理的に毀損する——この二重の非効率を可視化した意義は大きい。

日本の文脈でとりわけ重要なのは越境汚染の問題だ。自国の排出削減努力だけでは解決しきれない外部要因が発電効率に影響しているとすれば、二国間・多国間での大気質改善協議が再エネ政策の一部として扱われる必要が出てくる。情報として「知っておく」だけでなく、国内の再エネ計画や電力調達契約の実務に落とし込んでいくことが次の課題だろう。

数値の解像度がここまで上がってきた今、「太陽光は理論上これだけ発電できる」ではなく「実際にはこれだけ発電する」という現実的な見積もりを設計の出発点にする時代が来ている。


出典: この記事は Solar power production undercut by coal pollution の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。