米国のAIインフラ競争が新たな局面を迎えている。Tom’s GuideのAmanda Caswell記者が2026年5月12日に報じたところによると、米ユタ州ボックスエルダー郡のハンゼルバレーに、前例のない規模のAIデータセンターキャンパス「Stratos Project」が計画されていることが明らかになった。その規模と環境への影響をめぐり、地元住民と科学者から強い懸念の声が上がっている。

想像を絶する規模——ウォルマート2,000店舗分のフットプリント

Tom’s Guideの報道によると、Stratos Projectの敷地面積は約40,000エーカーに達する見込みで、ウォルマートの店舗約2,000店分に相当し、マンハッタンの面積の2倍以上という規模になる。

しかし規模以上に衝撃的なのが電力需要の想定値だ。最終的には最大9ギガワット(GW)の電力を消費する可能性があるという。現在のユタ州全体のピーク電力需要が4〜5GWであることを考えると、この単一のAIキャンパスが州全体の電力消費量を超える計算になる。

この膨大な電力需要を賄うため、開発側は公共の電力グリッドに頼るだけでなく、キャンパス内に大規模な天然ガス発電所を直接建設する計画を立てている。

「原爆23発分の熱」——物理学者が警告する環境リスク

Tom’s Guideが最も注目した発言が、ユタ州立大学の物理学者ロバート・デイヴィース教授のものだ。Salt Lake Tribuneへの取材で同教授は、「このデータコンプレックスは16ギガワットの熱負荷プロジェクトであり、毎日この地域環境に原爆23発分に相当するエネルギーが放出される」と指摘した。

ハンゼルバレーは遠隔地の乾燥した盆地地形で、夜間に熱が溜まりやすい地形的特性を持つ。デイヴィース教授の予測では、この熱負荷によって昼間は5°F(約2.8°C)、夜間は最大28°F(約15.6°C)もバレーの気温が上昇する可能性があるという。

住民が最も恐れるのは「水」

同記事によると、住民が最も懸念しているのは熱だけではない。使用する冷却システム次第では、年間数十億ガロンの水が必要になるとの推計もある。ユタ州は既に縮小する大塩湖問題を抱えており、研究者たちは長期的な砂漠化の加速や大気質の悪化、「ヒートアイランド現象」の発生を警告している。

開発側は気冷式システムと農業には不適な塩水地下水を活用する計画を示しているが、住民の懸念は払拭されていない。

日本市場での注目点

Stratos Projectは直接的に日本市場と関連する製品ではないが、日本のITエンジニアや企業にとって無視できない示唆がある。

AIインフラの「実物」が可視化された: ChatGPTやCopilotへの1回のAPIコールの背後に、このような物理インフラが存在する。「クラウド」という言葉が隠してきた現実がついに表面化した。

日本でも同様の議論が始まる可能性: 日本でも大規模データセンターの建設が各地で加速している。電力消費・水資源・発熱という3つの課題は、日本の立地条件によってはより深刻な問題になり得る。

AIコストとエネルギー費用の連動: データセンターのエネルギーコストは最終的にAPI利用料金に転嫁される。今後のAI利用コストの動向を読む上で、インフラ投資の規模感を把握しておくことは重要だ。

筆者の見解

AIが普及期に入った今、そのインフラの実態が初めて広く可視化されてきた段階にある。Stratos Projectの規模感は誇張ではなく、AIの急速な拡大がどれほどの物理的コストを伴うかを正直に示したものだ。

技術的な可能性と現実の持続可能性のバランスをどう取るか——これはAIを積極的に推進する立場であっても避けて通れない問いだ。むしろ、AIの価値を信じているからこそ、このコスト構造の問題をきちんと直視する必要がある。

特に注目したいのは、エネルギー効率がAIインフラの次の差別化軸になりつつある点だ。速さとコストだけで競争するフェーズは長くは続かない。次世代原子力や再生可能エネルギーとの組み合わせ、あるいはモデルアーキテクチャそのものの効率化が、AI覇権の行方を左右する要素になってくるだろう。インフラの「裏側」に目を向けておくことが、これからのAI活用戦略においてもますます重要になる。


出典: この記事は This AI data center will be bigger than 2,000 Walmarts and dump ‘23 atom bombs worth of energy’ into the environment every day — and locals are terrified の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。