Microsoft が Microsoft Foundry の 4月アップデートを発表し、ローカル推論エンジン「Foundry Local」の正式提供(GA)や GPT-5.5 の利用開始、エージェント監視ダッシュボードなど、本番運用フェーズを見据えた機能が一気に追加された。

Foundry Local が正式提供(GA)

これまでプレビューだった Foundry Local が、Windows・macOS(Apple Silicon)・Linux x64 の 3 プラットフォームで正式利用可能になった。Foundry Local はクラウドを経由せずにローカルマシン上でモデル推論を実行できる仕組みで、データをクラウドに送れない環境や、レイテンシを極限まで削減したい用途に対応する。

オンプレミス環境が多い日本の大企業にとって、「クラウドに出せないデータを使いながら AI エージェントを動かす」という需要は根強い。Foundry Local の GA は、こうした要件に対する現実解の一つとなる。

GPT-5.5 が Tier 5/6 サブスクリプションで利用可能に

GPT-5 ファミリーの最新モデル GPT-5.5 が Microsoft Foundry 上で利用できるようになった。現時点では Tier 5・Tier 6 のサブスクリプションがデフォルトクォータの対象。下位ティアでの展開については今後のアナウンスを待つ形となる。

モデルの選択肢という観点では、4月アップデートでは DeepSeek V4 Flash および DeepSeek V4 Pro も新たにカタログに追加されており、コスト・性能のトレードオフに応じてモデルを使い分けられる環境が整いつつある。

エージェントのトレーサビリティが大幅強化

本番運用で最も頭を悩ませるのが「エージェントが何をしているかわからない」問題だ。今回のアップデートはここに正面から対処している。

Microsoft Agent Framework トレーシング(プレビュー)

Agent Framework で構築したエージェントが OpenTelemetry トレースを Foundry に直接送出できるようになった。標準的な可観測性スタックとの統合が容易になり、既存の APM 基盤(Azure Monitor、Grafana 等)と組み合わせたデバッグが現実的になる。

ホスト型エージェントのトレーシング(プレビュー)

ホスト型エージェントのセッション・ツール呼び出し・実行ステップも Foundry トレースに可視化されるようになった。「どのツールがどの順番で呼ばれ、どこで時間がかかっているか」をダッシュボード上で追えるのは、チームでのデバッグ作業を大幅に効率化する。

エージェント監視ダッシュボード(プレビュー)

Agent Monitoring Dashboard では、トークン使用量・レイテンシ・実行成功率・評価スコアを一画面で確認できる。運用チームが SLO を設定して監視する基盤として機能する。

CodeAct with Hyperlight:サンドボックス化されたコード実行(アルファ)

セキュリティ面での注目機能が CodeAct with Hyperlight だ。Agent Framework がエージェントのツールチェーンとして Python コードを実行する際、Hyperlight マイクロ仮想マシン上で隔離実行する仕組みをアルファ提供した。

Hyperlight は Microsoft が OSS として公開している超軽量 VM ランタイムで、コンテナより強い分離保証を低オーバーヘッドで提供する。エージェントが生成したコードを何でも実行させる構成ではセキュリティリスクが高いが、Hyperlight による分離でそのリスクを大幅に低減できる。

継続的評価とカスタム評価器(プレビュー)

本番運用中のエージェントが「品質を維持できているか」を継続的に測定する Continuous Evaluation に、カスタム評価器を持ち込めるようになった。コードベースの評価器でも、プロンプトベースの評価器でも対応している。独自のビジネスロジックに合わせた品質基準で本番エージェントを監視できる点は、エンタープライズ導入において重要な要件だ。

コントロールプレーンでのエージェント一覧管理

Foundry Control Plane の Operate ビューから、サブスクリプション全体の対応エージェントを横断検索できるようになった。Foundry エージェント・Azure SRE Agent・Logic Apps エージェントループ・カスタム登録エージェントを一元管理できる。マルチエージェント構成が増えるに従い、「どのエージェントが存在するか」を把握する管理基盤は必須になる。

SDK アップデート

  • Python / JavaScript・TypeScript: エージェント・スキル・ツールボックスルートがベータ追加
  • .NET: 2.0 GA ラインに到達
  • Java: ストリーミング動作のバグ修正

実務への影響

エージェント開発者・アーキテクト向け

  • OpenTelemetry 対応のトレーシングが入ったことで、Datadog・Grafana・Azure Monitor 等の既存監視基盤とエージェントをつなぐ構成が描きやすくなった
  • Hyperlight による CodeAct は「エージェントにコードを書かせて実行させる」アーキテクチャの安全策として設計段階から採用を検討する価値がある

IT 管理者・セキュリティ担当向け

  • Foundry Local の GA により、データをクラウドに出せない環境での AI エージェント構築が正式サポートされた。コンプライアンス要件の整理が進めやすくなる
  • Agent Monitoring Dashboard でトークン消費量と成功率を可視化できるため、コスト管理とサービス品質の両立が現実的になった

マネージャー・経営層向け

  • Continuous Evaluation の強化により「本番エージェントの品質をどう測るか」という問いに対する答えが具体化してきた。ROI 測定の根拠として活用できる

筆者の見解

Microsoft Foundry の今回のアップデートを見ていて感じるのは、「プロトタイプから本番へ」というフェーズへの本気度だ。トレーシング・監視ダッシュボード・継続的評価・サンドボックス実行環境と、本番運用で必要になる要素が一度に揃ってきた。

とりわけ Hyperlight による CodeAct は面白い方向性だと思う。「エージェントにコードを書かせる」構成は強力だが、セキュリティ上のリスクをどう制御するかが常に課題だった。OS レベルの分離を軽量 VM で実現するアプローチは、クラウドネイティブな文脈でもオンプレミスでも再現性のある解になりうる。

Microsoft Foundry 経由で GPT-5.5 や DeepSeek 等の複数モデルを組み合わせて使える環境が整ってきたことも重要だ。Azure のインフラとセキュリティ基盤はそのままに、その上で動かすモデルを用途に応じて選べる。これが「Microsoft 基盤を捨てずに最良の AI を使う」という現実的なアプローチの形になりつつある。

一方で、これだけ多くの機能が「プレビュー」「アルファ」として同時に追加されると、どれを優先して検証すべきか判断が難しいという面もある。本番導入を急ぐ前に、自社のユースケースに照らしてどの機能が本当に効くかを小さく試す進め方が、今の段階では堅実だろう。Microsoft Build(6月)のセッションで具体的なベストプラクティスが共有される予定なので、そこまで待って方針を固めるのも一手だ。


出典: この記事は What’s new in Microsoft Foundry | April 2026 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。