The Vergeのエマ・ロス記者が2026年5月10日に報じたところによると、ニュースレタープラットフォームの草分けである「Substack」から、GhostやBeehiivといった新興プラットフォームへのクリエイター移行が新たな局面を迎えている。かつては独立系ライターの登竜門として脚光を浴びたSubstackだが、その収益モデルへの不満が蓄積し、有力パブリケーションが相次いでプラットフォームを離れている。
「Substack税」とは何か——10%課金が重くのしかかる構造
Substackのビジネスモデルは、クリエイターの有料購読収益から10%を徴収するというシンプルなものだ。小規模なうちはさほど問題にならないが、購読者数が増えて月額収益が膨らむほど、この10%が経営を圧迫する「税」として機能し始める。
NBA専門パブリケーション「The Rose Garden Report」を運営するショーン・ハイキン氏がThe Vergeに語ったところによると、昨年4月にSubstackからGhost(+アドオンのOutpost)へ移行した結果、年間費用が4,968ドルから2,052ドルへと約58%削減された。さらに購読者数は2024年末比で22%増を達成している。ハイキン氏は「招聘した新規タレントとして取り上げてもらえる間は成長できたが、その期間が終わると完全に放置された」と、Substackのプロモーション構造への不満も率直に語っている。
大学スポーツ専門ニュースレター「Extra Points」(購読者71,000人)を運営するマット・ブラウン氏は2021年にSubstackを去り、現在はBeehiivを利用。Beehiivでの年間費用は約3,000ドルだが、「今の規模のままSubstackにいたら年間25,000ドル以上を支払っていたはず」と語り、8倍以上のコスト格差が生じていたと指摘する。
移行先プラットフォームの実態——Ghost、Beehiiv、Passportとは
The Vergeのレポートによれば、クリエイターの移行先として名前が挙がっているのは主に以下の3つだ。
GhostはオープンソースのCMSで、自己ホスティングも可能なセルフサービス型。収益の何割かを徴収するモデルではなく、月額・年額の固定料金体系を採用している。規模が大きくなるほどコスト優位が鮮明になる。
Beehiivはニュースレター特化の新興プラットフォームで、広告ネットワーク機能を内包するのが特徴。固定料金モデルにより、大規模パブリケーションほどSubstackとの差が開く。
エンタメ業界パブリケーション「The Ankler」はSubstackを離れ、WordPressを運営するAutomatticとStratecheryのベン・トンプソン氏が共同開発した新プラットフォーム「Passport」へ移行した。「ニュースレターを超えた統合メディア企業への転換を象徴する決断」とJanice MinおよびRichard Rushfieldの両氏はブログで説明している。
The Vergeはさらに、「Culture Study」のアン・ヘレン・ピーターセン氏がPatreonへ移行し「段階的にenshittification(サービスの質的劣化)が進んだプラットフォームには居たくなかった」と発言したことを伝えており、The BulwarkやMehdi HasanのZeteo、Emily SundbergのFeed Meも移行を「静かに検討している」と報じている。
日本市場での注目点
日本ではnote.comが独立系クリエイターの有料購読プラットフォームとして広く定着しており、Substackと類似した手数料モデルを採用している。Ghost・Beehiivの国内認知度はまだ低いが、英語圏向けニュースレターを運営する日本人クリエイターや、規模が拡大してきたコンテンツビジネスを展開するライターにとっては、コスト構造の見直し候補として検討する価値がある。
Ghostは日本語コンテンツにも対応しており、独自ドメインでの運営が可能な点も魅力だ。一方で、Substackが持つディスカバリー(新規読者獲得)機能は移行先では弱まるため、既存の読者基盤がある程度確立してからの移行が現実的と言えるだろう。
筆者の見解
プラットフォームが「仲介者として価値を提供する段階」から「コストとしてのしかかる段階」へと転じるのは、多くのSaaSサービスで繰り返されてきたパターンだ。Substackは創業初期の「スター発掘・育成」機能で差別化していたが、クリエイターのプラットフォーム依存が薄れるとたんに課金モデルが重荷へ変わる——という構造的な問題を最初から内包していた。
インフラ選定の文脈で言えば、「フルマネージドサービスで立ち上げ、スケールしたらコスト構造をコントロールできる環境へ移行する」判断と本質的に同じ構造だ。規模が大きくなるほど固定費型プラットフォームへ移行する経済合理性は明確になる。Substackのネットワーク効果を享受しながら成長し、閾値を超えたら自社ドメインとコスト構造を自分でコントロールする——これは合理的な判断の積み重ねと見るべきだろう。
コンテンツクリエイターにとって真に価値ある資産は、プラットフォームへの従属ではなく読者との直接関係だ。プラットフォームは変わる。メールアドレスのリストは自分のものであり続ける。今回の移行ラッシュは、その原則を再確認させる動きでもある。
出典: この記事は Writers are fleeing the Substack Tax の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。