米メディア「Tom’s Guide」のScott Younker記者が2026年5月8日、SamsungがホログラフィックスマートフォンディスプレイをR&D中とのリーク情報を報じた。X(旧Twitter)上のリーカー「Schrödinger」が、Samsungのサプライチェーン関係者とされる人物とのやりとりのスクリーンショットを公開したことが発端だ。
ホログラフィックディスプレイ「H1」とは何か
Tom’s Guideの報道によれば、今回リークされた技術のコードネームは「MH1」または「H1」。注目すべきは、これが10年前に登場した3Dディスプレイの単純な焼き直しではないという点だ。
H1の核心技術は「アイトラッキング」と「回折ビームステアリング(diffractive beam-steering)」の組み合わせにある。ユーザーの視点位置をリアルタイムで検出し、ホログラフィック層が動的に反応することで、メガネなしで画面の奥に広がるような立体感を実現するとされる。
さらに、Tom’s Guideが紹介しているサプライチェーン情報筋の主張によれば、端末を傾けることで映像内の物体の「裏側」を覗き込むような体験も可能になるという。これはApple Vision Proのような空間コンピューティング端末が提供する体験に近い感覚で、Samsungはそのためのアルゴリズム特許もすでに取得済みだとされている。
一朝一夕ではない——長年の研究の蓄積
Tom’s Guideの記事が指摘するように、Samsungはこの分野で長い研究実績を持つ。Samsung Advanced Institute of Technology(SAIT)は2020年に、ステアリングバックライトユニットを用いたホログラフィック映像の視野角改善に関する学術論文を発表した。その中でHong-Seok Lee氏は次のように述べている。
「通常のディスプレイは光の強度で映像を表示するが、ホログラムは光の強度だけでなく位相も制御することで、三次元に見える映像を生成する」 Samsungのホログラム表示スマートフォン関連特許の取得は2018年にまで遡り、今回のリークは突如浮上した話ではなく、十年単位の研究の延長線上にある。
AppleとSamsungの空間コンピューティング競争
Tom’s Guideによれば、同情報筋はApple側でも「空間iPhone」のサプライチェーン噂があると述べているという。Appleは2019年にホログラフィック関連特許を取得しており、2008年にはメガネなし裸眼立体視ディスプレイ技術の特許保有も報じられている。
4月には新CEO John TernusとSVP Greg Joswiak(Joz)がインタビューで「空間コンピューティングは必然だ」と明言。「デジタルと物理世界の融合に対する必然性がある」(Joz)と語っており、両社にとって中長期的な最重要テーマの一つであることは間違いない。
日本市場での注目点
現時点でH1は研究開発フェーズ1にあり、Tom’s Guideの報道では2030年のデビューが一つの目標として挙げられている。現在日本で購入できる製品は存在しない段階だ。
続報を追う上で注目すべきポイントは以下の通り。
- Galaxyシリーズへの実装タイミング: SamsungのフラッグシップはGalaxyとして国内キャリアからも展開されており、技術が実装された際の導入タイミングが焦点となる
- XRヘッドセットとの棲み分け: Meta QuestシリーズやApple Vision Proといった空間コンピューティング端末との役割分担がどう整理されるか
- 価格帯: 光学・センサー技術を組み合わせた初期モデルは相応のプレミアム価格になることが予想される
筆者の見解
「2030年デビュー目標」という時間軸には、慎重な姿勢で臨むべきだろう。2018年の特許取得から8年近くが経過してもまだフェーズ1にある現実を見れば、2030年もあくまで目標値であり、実際の量産・商品化にはさらなる時間がかかる可能性が高い。リーク情報ベースの段階で過度な期待を持つのは禁物だ。
それでも、技術の方向性自体は注目に値する。アイトラッキングと光学制御を組み合わせてメガネなしで立体視を実現するアプローチは、「端末を手に持って使う」という現在のスマートフォンのスタイルと自然に調和する。Vision Proのような頭部装着型デバイスとは異なり、既存の使い方を変えずに空間表現を取り込める点に実用的な可能性を感じる。
AIが今の技術革新の中心であることは疑いないが、AIが生成した3Dコンテンツをユーザーへ自然な形で届けるインターフェースとして、ホログラフィックディスプレイは将来的に重要な役割を担いうる。2030年という目標が現実になるかどうかより、「どんなユースケースで人々の体験を変えるか」という問いを持ちながら技術の成熟を見守りたい。
出典: この記事は Forget AI — the next big phone innovation could be holographic displays の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。