米国ユタ州で、未成年者のオンラインコンテンツアクセスを規制する新法「SB 73(Online Age Verification Amendments)」が2026年5月6日に施行された。Tom’s GuideおよびTom’s Hardwareが報じた内容によると、この法律はVPNを直接禁止するものではないが、VPN利用者がサイトにアクセスした場合でもサイト運営者が法的責任を負うという、これまでにない規制アプローチを採用している。

VPN利用でも「ユタ州内アクセス」とみなされる

Tom’s Guideの報道によれば、施行後はユタ州内に物理的に存在する人物は、VPNやプロキシサーバーを使用していても「ユタ州からのアクセス」として扱われる。これは地理的な事実とは無関係に、物理的所在地が法的判断の基準になることを意味する。

サイト側に責任を転嫁する「責任の罠」

最も特徴的なのは、ユタ州として初めてVPN利用者によるアクセスをサイト側の責任とする規定だ。未成年者がVPNを使って年齢確認を回避した場合、そのサイトが訴訟リスクを負う。

さらに、「成人向けコンテンツを相当量ホスティングする企業」が、VPNを使った匿名アクセスの方法をユタ州民に説明・推奨することも禁止される。Tom’s Guideは「成人向けサイトがSNSに『プライバシー保護のためVPNを使う方法』を投稿することすら法律に抵触しかねない」と具体例を挙げている。

実際のVPN排除は「いたちごっこ」

Tom’s Guideは電子フロンティア財団(EFF)の見解を引用しながら、VPNの完全ブロックは技術的に極めて困難だと指摘している。VPNプロバイダーはIPアドレスを常に追加し続けており、通常の家庭ISPトラフィックに偽装する「レジデンシャルプロキシ」はフィルタリングがほぼ不可能だ。

同メディアは「多くのサイトが既知のVPNトラフィックを全てブロックするか、場所に関係なく全訪問者にIDのアップロードを求める対応に走る可能性がある」と見ている。

年齢確認の世界的潮流

Tom’s Guideによれば、米国の複数の州および諸外国で年齢確認の義務化が進んでおり、政府IDのアップロードや質問への回答が標準的な手順になりつつある。CAPTCHAがボット対策として定着したように、年齢確認が未成年者保護の標準インフラになるという見方が広がっている。

日本市場での注目点

SB 73は米国ユタ州の法律であり、日本の利用者に直接適用されるわけではないが、以下の観点で注視する価値がある。

  • グローバルサービスへの波及: 日本国内からアクセスするグローバルサービスが、ユタ州対応の一環として全ユーザーに年齢確認を求める設計変更をした場合、日本ユーザーにも影響が及ぶ
  • 業務VPNへのコラテラルダメージ: 企業のリモートワークや海外拠点との接続に使うVPNまで巻き込まれるリスクがあり、IT管理者は注意が必要
  • 日本でも進む規制議論: 日本でもプラットフォーム規制や未成年者保護の法整備が活発化しており、類似したアプローチが参考にされる可能性がある

筆者の見解

SB 73の設計は「VPNを禁止する」のではなく、「VPN利用に伴う責任をサイト側に押し付ける」という構造になっている点が技術者として気になる。技術的に不可能なことを強制する代わりに、「できなかった時の責任はそちらで取れ」と転嫁する仕組みだ。

結果として多くのサービスが「罰則を避けるためにVPNユーザー全員を締め出す」という過剰対応に走ることが容易に想像できる。プライバシー保護の正当な目的でVPNを使うユーザー、業務用VPNで接続するビジネスユーザーまで巻き込まれるのは、コラテラルダメージとして大きすぎる。

未成年者保護という目的自体は正当だ。しかし「禁止ではなく安全に使える仕組みを」という観点からすると、VPN利用を萎縮させる設計より、信頼性の高い年齢確認技術の整備と普及に投資する方が本質的な解決に近い。規制の設計が「最も手軽に責任を転嫁できる相手」を狙う限り、本来守りたい未成年者を守る仕組みにはなりにくい。この流れが他の地域に波及するかどうか、引き続き注視していく必要がある。


出典: この記事は Utah’s new age verification law will hold websites liable when visitors use a VPN — what this means for you の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。