Engadgetは2026年5月2日(現地時間)、テスラがカナダ市場において上海ギガファクトリー(Giga Shanghai)製のModel 3の販売を再開したと報じた。ジャクソン・チェン記者の報道によると、エントリーグレードのModel 3 Premium Rear-Wheel Drive(RWD)が3万9,490カナダドル(約2万9,000米ドル)から購入可能となり、カナダにおける同モデル史上最低価格での提供となる。
価格が半額になった背景——関税政策の三転四転
この価格実現の経緯は、グローバルEV市場を揺るがす関税政策の変遷そのものだ。2024年以前、カナダのユーザーはGiga Shanghai製Model 3を購入できていたが、カナダ政府が中国製EVに対し100%の追加関税を課したことで状況が一変した。
テスラはカリフォルニア州フリーモント工場製EVをカナダ向けに切り替えることで対応したが、今度はトランプ政権の関税政策を受け、カナダが米国製自動車に25%の報復関税を設定。Engadgetの報道によれば、この結果カナダでの最安モデルは7万9,990カナダドル(約5万9,000米ドル)という高額になっていた。
転機となったのは、カナダが中国製EVへの関税を6.1%へと大幅引き下げした決定だ。テスラは上海製Model 3をカナダへ再輸出できる状況に戻り、価格を従来の約半額へと圧縮することに成功した。
今回発表された価格体系
Engadgetの報道に基づくと、今回のラインナップは以下の通りだ。
- Model 3 Premium RWD:3万9,490カナダドル(約2万9,000米ドル)
- Model 3 Performance:7万4,990カナダドル(約5万5,000米ドル)※従来8万9,000カナダドルから引き下げ
ただし、Model 3 Premium RWDは現時点でカナダの新しい「Electric Vehicle Affordability Program」(最大5,000カナダドルの補助金)の対象外となっている。カナダ国内製造の車両が条件となるため、上海製の本モデルは適用されない点は購入検討者にとって注意すべき点だ。
日本市場での注目点
日本市場では以前からGiga Shanghai製Model 3が販売されており、今回のカナダ向け動向が直接日本の価格に影響するわけではない。現行の日本向けModel 3は概ね500万円台前後から購入可能で、CEV補助金を活用することで実質負担を抑えられるケースもある。
ただし今回の一件が示すのは、EVの市場価格が関税・貿易政策によってここまで大きく揺らぐという現実だ。日本においても今後の国際的な貿易環境の変化次第でEV価格の動向が左右される可能性は否定できない。
筆者の見解
今回のカナダでの価格引き下げは、テスラが関税政策の変化を素早く利用した典型例といえる。価格が約半額になったという事実は消費者にとって喜ばしいが、同時に「関税次第で同じ製品が倍の値段になる」というグローバルEV市場の構造的な不安定さも鮮明に浮き彫りにしている。
Giga Shanghaiは今やテスラのグローバル輸出の主要拠点だが、その恩恵を受けられるかどうかは消費者の所在地と政治的な意思決定に完全に依存している。EV普及を本気で推進するためには、技術コストの低下と同様に、安定的かつ予測可能な政策環境が不可欠であることを、今回の一連の動きは改めて示している。
自動車の電動化はとっくに「技術の問題」から「地政学・政策の問題」へと移行している。テスラのような企業が工場立地と販売戦略を柔軟に組み替えられる背景には、グローバルサプライチェーンを自在に動かせる規模の強さがある。日本の自動車業界にとっても、この構図は決して対岸の火事ではない。
出典: この記事は Tesla starts selling Chinese-made Model 3s in Canada at the EV’s lowest price ever の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。