Microsoft Foundryが静かに、しかし確実に「エンタープライズAIの司令塔」としての形を整えつつある。今回のアップデートでは、企業内知識の検索・活用を自動化するFoundry IQと、複数プラットフォームにまたがるAIエージェントを統合管理するFoundry Control Planeの2つがプレビューとして追加された。「AIを導入したいが管理が追いつかない」という多くの日本企業の悩みに直接応える内容だ。

Foundry IQ — RAGパイプラインを「組むのではなく、生やす」

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AIに企業独自の知識を組み合わせる手法として広く普及しているが、実装は一筋縄ではいかない。SharePoint上のドキュメント、Microsoft Fabricのデータウェアハウス、社外Webサイト——これらを横断して「正しい情報を正しいタイミングで取り出す」パイプラインを作るには、相当の工数が必要だった。

Foundry IQはこの課題を正面から解決しようとしている。Managed Knowledge Systemという統合知識基盤を提供することで、データソースごとに個別のインジェスト・インデックス・検索ロジックを組む作業を大幅に自動化する。SharePoint・Microsoft Fabric・Webを接続ソースとして統一的に扱えるため、「社内文書からも答え、Webの最新情報も参照できる」エージェントが現実的な工数で実現できるようになる。

Foundry Control Plane — エージェントの「行動を見る・制御する」インフラ

AIエージェントの本格展開が近づくにつれ、「どのエージェントが何をしているか把握できない」という管理上の不安が現場で高まっている。Foundry Control Planeはその解に挑む機能で、Azure上だけでなく複数のプラットフォームにまたがるエージェントを一元的にガバナンスできる仕組みを提供する。

エージェントの展開・停止・ポリシー適用・ログ収集といった運用面を集約することで、セキュリティチームやIT管理者が「AIがやっていること」を可視化・制御できるようになる。Microsoft Entra IDとの統合によってエージェントに対するアイデンティティ管理——誰が・何のエージェントを・どの権限で動かすか——が整理されれば、企業導入のハードルは一気に下がるだろう。

実務への影響

エンジニア・アーキテクト向け

  • RAGパイプラインの構築コストが下がることで、「AIエージェントのPoCを数ヶ月で仕上げる」という目標が現実味を帯びる
  • SharePointとFabricを両方使っている環境(大企業に多い)では、Foundry IQによる統合知識基盤の恩恵が特に大きい
  • Foundry Control Planeは「エージェントの増殖に管理が追いつかない」問題への答え。社内展開を始める前に仕組みを先に入れる選択肢として、今から評価しておく価値がある

IT管理者・セキュリティ担当向け

  • エージェントが増えるほど非人間アイデンティティ(Non-Human Identity, NHI)の管理が必要になる。Control PlaneがEntra IDと連携する形であれば、既存のIAMポリシーをエージェントにも拡張できる可能性がある
  • 「エージェントが何をしたか」を後から追えない構成は監査対応でも問題になる。ログと可視性の確保を最優先で考えること

筆者の見解

Foundry IQとFoundry Control Planeが示す方向性は、筆者が考える「正しいAI基盤戦略」と重なる部分が多い。

エンタープライズのAI活用における最大の課題のひとつは、知識の分散だ。「SharePointにもFabricにもWebにも情報があるが、どれを参照すべきかエージェントが判断できない」という状況は多くの組織で起きている。Foundry IQのManaged Knowledge Systemがその統合を本当に使いやすいレベルで実現できるなら、エンタープライズRAGの「工数の壁」を乗り越える転換点になりうる。

Foundry Control Planeについては、むしろ「これが早くGA(一般提供)になってほしい」という思いが強い。エージェントの展開は、管理の仕組みが整う前に走りすぎると後から痛い目を見る。Control Planeが複数プラットフォームをカバーするという設計思想も現実的だ。「Azure上だけのAIで完結する」という前提はもう通用しない。マルチプラットフォームを見据えているのは正しい。

Microsoftが「最も多くのエージェントが安全に動作するプラットフォーム」を目指すという方向性は、AIモデルそのものの優劣とは別軸の勝負だ。今回のアップデートはその道筋に確かに乗っている。プレビュー段階でどこまで実用になるか——実際に手を動かして確かめたいと思っている。


出典: この記事は Microsoft Foundry Upgrades: Foundry IQ and Foundry Control Plane Previews の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。