2026年5月、米ミネソタ州が全米で初めてAIによる「ヌード生成(ヌーディフィケーション)アプリ」を禁止する法律を可決した。Ars Technicaが報じたところによると、同州上院は65対0の全会一致でこの法案を可決。知事のTim Walzが署名すれば、2026年8月から施行される見通しだ。
なぜこの法律が注目されるのか
Ars Technicaの報道によると、法案を提出した民主党のErin Maye Quade上院議員のきっかけは、地元で発覚した具体的な被害事例だった。ミネソタ州の一男性が、知人・友人の女性80名以上の画像をAIで「ヌード化」していたことが判明。男性は謝罪したものの、被害者全員の特定に協力しなかった。
問題は、この行為に対して既存の法律がほぼ機能しなかった点だ。「Take It Down Act(性的画像の強制削除法)」は画像の拡散が前提であり、拡散証拠がない場合は適用困難。リベンジポルノ関連法も加害者の悪意立証のハードルが高く、実質的に被害者を守れなかった。この「法の空白」を埋めるための立法が、今回の禁止法だ。
法律の主な内容
Ars Technicaの解説によると、新法のポイントは以下の通りだ。
- 禁止対象: 実在する人物の画像を「ヌード化」するために設計されたウェブサイト・アプリ・ソフトウェア・サービス
- 制裁金: 州司法長官が偽造AIヌード1件につき最大50万ドル(約7,500万円)の制裁金を科せる
- 制裁金の使途: 性的暴行・家庭内暴力・児童虐待被害者への支援サービスに充当
- 民事訴訟: 被害者は懲罰的損害賠償を含む損害賠償請求が可能
- サービスブロック: 違反製品は州内でアクセスをブロックされる可能性
「汎用ツールは除外」という設計の巧みさ
性的暴行被害者支援の全米最大NPOであるRAINNが法案策定に協力し、業界各社との事前協議を経た結果、Photoshopのように「副次的にヌード化が可能」な汎用ツールは適用対象外となった。「ユーザーの技術的スキルが必要な製品・サービス」を明示的に除外することで、過剰規制を回避している。つまり、ボタン一発でヌード化できる専用アプリのみが主なターゲットだ。
GrokのCSAM問題との同時浮上
Ars Technicaは同記事の中で、ミネソタ州の法律可決と同時期に、xAI(イーロン・マスク)のAIアシスタント「Grok」においてCSAM(児童性的虐待素材)が生成されたとする新たな証拠が報告されたことにも言及している。AIによる性的コンテンツ生成問題が単発の事件ではなく構造的な課題として顕在化していることが、今回の立法を後押しする形となっている。
日本市場での注目点
日本では2023年のリベンジポルノ規制法改正、2024年の性的姿態撮影等処罰法(盗撮規制法)など、デジタル性犯罪への法整備が段階的に進んでいる。しかし「AIによるヌード生成専用アプリ」を名指しで禁止するような法律は、2026年5月時点で日本にはまだ存在しない。
国内では著名人のDeepFake被害が相次いで報告されており、この問題への関心は高い。ミネソタ州の「65対0の全会一致」という可決結果は、党派を超えた合意形成が十分に可能なテーマであることを示しており、日本の立法議論にとっても示唆に富む事例となるだろう。
筆者の見解
私はふだん「禁止アプローチは必ず失敗する。ユーザーが公式に提供されたものが一番便利と感じる状況を作る方が本質的だ」と主張している。しかし今回のケースは、その原則の適用外だと考える。
「ボタン一発でヌード化できる専用アプリ」には、正当な利用目的が事実上存在しない。Photoshopのように「悪用もできる汎用ツール」とは性質が根本的に異なり、禁止が妥当な局面だ。
ミネソタ州の法律が評価できる点は、この区別を明確に設計したことだ。汎用ツールを適用除外とし、専用の悪用ツールのみを狙い撃ちにすることで、イノベーションへの悪影響を最小化しつつ被害防止を図っている。RAINN と業界が協議しながら法案を作り上げたプロセスも、実効性ある立法のモデルケースとして参照に値する。
一方で懸念もある。App StoreやGoogle Playからの排除は可能でも、野良APKやブラウザベースのサービスを完全に防ぐことはできない。法律の制定はあくまでスタートラインだ。今後は決済プラットフォームを通じた収益化阻止や、ストア審査ポリシーへの反映など、民間企業を含む多層的なアプローチが不可欠になる。日本においても、技術的に可能なことと社会的に許容されることの間に線を引く実務的な議論を、ここから加速させてほしい。
出典: この記事は Minnesota passes ban on fake AI nudes; app makers risk $500K fines の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。