MetaのAR/VR部門「Reality Labs」への5年間の賭けが、累計835億ドル(約12.5兆円)という天文学的な損失を積み上げた。そしてCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が次に向かうのは、AI分野への1250億〜1450億ドルという前例のない規模の投資だ。2026年第1四半期の決算発表で明らかになったこれらの数字は、テック大手が繰り広げるAIインフラ競争の実態を改めて浮き彫りにしている。

Reality Labsの5年間:「驚きではなくなった」40億ドルの損失

2021年以降、21四半期連続でReality Labs部門は赤字を計上してきた。四半期平均の損失は約40億ドル。累計で835億ドルを超えるこの数字が示すのは、損失の「常態化」そのものだ。

注目すべきは、市場がこの数字にもはや驚かなくなっている点にある。「Reality Labsがまた40億ドル失った」というニュースが、ルーティンとして受け止められるようになった——その状況自体が、ある意味で特筆に値する事態だ。

Metaの財務体力はこれを支えられる水準にある。2026年Q1の純利益は268億ドル(前年比61%増)、売上高は563億ドル(同33%増)。ソーシャルメディア事業の収益が、巨額の先行投資を下支えしている構図だ。

AR/VRからAIへ:投資の重心が移動する

メタバース戦略を縮小しながら、MetaはAI分野への投資を急加速させている。2026年の設備投資(capex)予測は1250億〜1450億ドル。アナリスト予測を上回るこの数字の背景には、メモリ価格を中心とするコンポーネントコストの上昇がある。

「AIの計算需要を継続的に過小評価してきた」——CFOのスーザン・リー氏のこの言葉は重い。2027年の設備投資見通しを問われた際も明確な回答はなく、AIインフラの計画が自社内でも「非常にダイナミックなプロセス」であり続けている実態が透けて見える。

競合他社に対抗するため、MetaはAI研究者・エンジニアを50名以上引き抜き、新AIモデル「Muse Spark」をリリース。ザッカーバーグ氏はMeta AIの利用が「大幅に増加した」と強調したが、市場は先行投資の規模に懐疑的で、決算発表後の株価は5%超の下落となった。

実務への影響:AIインフラコストの現実を正しく見積もる

この一連の数字から、日本のエンジニアやIT管理者が読み取れることがある。

AIインフラは「想定以上のコスト」を前提に計画せよ:Metaほどの規模の企業でさえ「計算需要を過小評価し続けてきた」と認めている。自社でAIシステムを構築・運用する際には、インフラコストの見積もりに十分なバッファを設けることが必須だ。

クラウドサービスの価格変動リスクを織り込む:メモリ価格の高騰は各クラウドプロバイダーのAI関連サービス価格にも波及する。GPUインスタンスやAI特化サービスを利用しているチームは、コスト動向を定期的にモニタリングする体制を整えておきたい。

基盤モデルの選定はロックインを避ける設計で:巨額を投じた競争が続く中、今日の「最良の選択」が半年後も最良であり続けるとは限らない。自社ユースケースに基づいた評価基準を持ち、プロバイダー間の移行コストを意識したアーキテクチャを検討することが重要だ。

筆者の見解

AR/VRの次はAIへ——そう単純に見えるかもしれないが、実態はもう少し複雑だ。ソーシャルメディアで積み上げてきた膨大なユーザーデータと接点を持つMetaにとって、AI分野はゼロからのギャンブルではなく、既存事業との相乗効果が期待できる領域でもある。

とはいえ、資金力と研究の質は別の話だ。835億ドルを投じたメタバースの経験が示したのは、「お金を積めば勝てる」という保証はどこにもないという事実だった。「Muse Spark」が競合モデルと本当に肩を並べる品質かどうかは、外部からまだ十分に検証できていない。

AIインフラ投資競争は、どの企業も「計算需要を正確に見積もれない」不確実な環境で繰り広げられている。MetaがCFO自ら認めたこの「継続的な過小評価」の問題は、Metaだけの課題ではなく業界全体が直面している構造的な難しさだ。その意味で、今後のMetaの試行錯誤から得られる知見は、分野全体にとって価値ある学びになりうる。日本企業がAI投資計画を立案する際にも、こうした大規模事例の「失敗の公開」から学ぶ姿勢を持ち続けたい。


出典: この記事は Meta is still burning money on AR/VR の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。