Tom’s Guideが2026年4月29日に報じたところによると、AppleがMixed Reality(複合現実)ヘッドセット「Apple Vision Pro」の開発を事実上終了したもようだ。MacRumorsの報告を引用する形で、Appleが同製品を「ほぼ諦めた(all but given up)」状態にあることが明らかになった。

なぜVision Proはここまで失速したのか

Vision ProはAppleが2024年2月に3,499ドル(日本では税込59万9,800円〜)という強気な価格で投入した、同社初の空間コンピュータだ。2025年10月にはM5チップ搭載の新モデルも発売し、バッテリー持続時間の改善と処理性能向上を果たした。しかしMacRumorsの報告では、M5モデル投入後も消費者の関心は回復しなかったとされている。

発売以来の累計販売台数は約60万台にとどまっており、Appleが公式な販売数を開示しない中での推計値だ。Tom’s Guideによれば、Appleの中でも「突出して高い返品率」が記録されており、他の現行製品と比べても異例の水準という。

海外レビューのポイント:重さと価格が最後まで壁に

Tom’s Guideをはじめとした海外テックメディアが一貫して指摘してきたのが、本体重量と価格の2点だ。

  • 重量: Vision Proは約600g超(1.3ポンド超)。対してMeta Quest 3は約499g(1.1ポンド)、Samsung Galaxy XRは約544g(1.2ポンド)と、競合製品はいずれも軽量
  • 価格: 3,499ドルは競合のMeta Quest 3(499ドル〜)の約7倍。価格差を正当化するキラーユースケースが、一般消費者には見つけにくかった

2026年初頭には、より軽量・低価格な「Vision Air」の開発が進んでいるとも報じられたが、Tom’s Guideによればこのプロジェクトはすでに中止。代わりにAppleはスマートグラス路線へと舵を切ったとされている。

チーム解体と「次の賭け」

MacRumorsの報告では、Vision Proを担当していたチームはすでに他部門へ再配置済みとのこと。中でも注目されるのは、Vision Proのアーキテクトを務めたVP(バイスプレジデント)のMike Rockwellが、2025年3月にSiriチームの責任者へ異動していた点だ。

Appleが次に注力するのはスマートグラスだ。Tim Cook現CEOがスマートグラス開発に強い意欲を持つことはかねてから知られており、Tom’s Guideの報道によれば、2026年内にはその姿が公開される可能性がある。ただし実際の販売開始は2027年以降になる見通し。

設計の方向性は、Meta Ray-Banのようなディスプレイを搭載しないスタイルで、カメラ・マイク・センサーを内蔵し、写真・動画撮影、通話、Apple Intelligenceによる音声インタラクションに対応するとされている。2026年9月1日に就任予定の次期CEO、John Ternusがその全容を発表する場になるとの観測もある。

日本市場での注目点

Vision Proは2024年6月に日本でも発売されたが、59万9,800円〜という価格は市場への普及を大きく阻んだ。現時点でAppleから公式なアナウンスは出ておらず在庫販売が続く状態だが、今後の後継モデル投入は不透明だ。

一方、競合製品のMeta Quest 3はAmazon.co.jpなどで7万円前後から入手可能で、ゲームやVR体験用途では日本でも一定のユーザーベースを確立している。スマートグラス分野ではRayNeo Air 4 Proや2nd-gen Ray-Ban Metaといった製品が先行しており、Appleが2027年以降に参入する頃には競争環境がさらに変化している可能性がある。

筆者の見解

Vision Proの失速は、「価格と重量の壁をコンテンツ体験で超えられるか」という問いに、Appleが答えを出せなかった結果だと筆者は見ている。

空間コンピューティングの概念としてのVision Proは技術的には間違いなく先進的だった。しかし「3,499ドルを出して毎日使いたい理由」が、一般ユーザーには最後まで見えにくかった。デベロッパーがキラーアプリを作れなかったのか、ハードウェア側の制約が大きすぎたのか——おそらく両方だろう。

次世代スマートグラスへの転換は、より現実的な路線への回帰として筋が通っている。日常的に装着できる重さと価格帯に抑えた上で、Apple Intelligenceをハンズフリーで活用できる体験を作れるなら、Vision Proとは別の可能性が開ける。

ただし2027年という投入タイミングで、MetaやGoogleが手をこまねいているとは考えにくい。スマートグラス市場は競争が激化しており、「後発だが圧倒的」を実現できるかは未知数だ。Vision Proの轍を踏まないためにも、価格・重量・コンテンツエコシステムの三点セットで競合を上回ることが最低条件になると見ている。

関連製品リンク

Vision Pro VR MR ヘッドセット 1TB 空間コンピューティング

Vision Pro VR MR ヘッドセット 1TB 空間コンピューティング

上記はAmazon.co.jpへのリンクです。記事執筆時点の情報であり、価格・在庫は変動する場合があります。


出典: この記事は Apple has reportedly ‘stopped work on the Vision Pro’ — here’s what we know の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。