米連邦取引委員会(FTC)が2026年4月に公表した新報告書によると、2025年にソーシャルメディア経由の詐欺で米国人が失った金額は21億ドル(約3,000億円)にのぼり、2020年比でじつに8倍超の急増を記録した。Tom’s Guideが詳報したこの数字は、SNS詐欺がもはや「特定層が注意すべき問題」から「社会インフラ全体のリスク」へと変質しつつあることを如実に示している。
FTC報告書が示す3大詐欺の構造
投資詐欺(被害額:約11億ドル)
FTCのデータでは、SNS詐欺被害総額のうち11億ドルが偽投資案件によるものだった。広告や投稿で「投資の極意を教える」と誘い込み、「友好的なアドバイザー」を装った詐欺師や、「成功した投資家」ばかりが集まる偽グループへ誘導する手口が横行した。実態のない投資プログラムに金を注ぎ込ませる、古典的かつ精巧な構造だ。
ショッピング詐欺(報告者の40%が経験)
SNS広告を経由して衣類・化粧品・カーパーツ・ペットに至るまで多岐にわたる商品を注文したものの、商品が届かないか情報を搾取される被害が続出。有名ブランドの大幅割引を謳うフィッシングサイトも数多く確認されており、ランディングページの見た目のクオリティが上がっていることも被害拡大の一因とされる。
ロマンス詐欺(報告者の60%がSNS起点)
金銭的な被害を報告した人のうち60%がSNSで知り合った相手から被害を受けたと回答。詐欺師はターゲットのプロフィールを分析し、好みや関心に合わせたペルソナを作り込む。親密な関係を築いた後に「緊急事態」を演出して送金させる手口は変わらないが、AIを活用したプロフィール生成・会話生成の精度向上が背景にあると推察される。
プラットフォーム別の被害規模
FTCの報告では、Metaが運営するプラットフォームが被害の中心を占めた。
- Facebook:詐欺起点として約7億9,400万ドルの被害
- WhatsApp・Instagram:合計約6億2,900万ドル(FTCは「遠く離れた2位・3位」と表現)
FTCは「2025年において、Facebook単独での詐欺被害額は、テキストや電子メール詐欺の合計を上回った」と指摘。プラットフォームの広告エコシステムと詐欺の親和性の高さが改めて浮き彫りになった形だ。
FTCが推奨する自衛策
FTCはレポートの中で、以下の具体的な対策を呼びかけている。
- SNS経由での投資判断を絶対に行わない——特にパブリックアカウントを運用している場合は詐欺師のターゲットになりやすい
- プライバシー設定を見直す——投稿・連絡先の公開範囲を最小化し、詐欺師が参照できる情報を減らす
- オンライン広告で商品を購入する前に検索する——企業名+「詐欺」「苦情」で必ず確認する
- 身元情報保護サービスやウイルス対策ソフトを活用する——被害発生後のリカバリーにも有効
日本市場での注目点
日本でも状況は対岸の火事ではない。国民生活センターや警察庁の統計でも、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の被害額は年々増加しており、2024年には過去最高水準を更新している。特にMeta系プラットフォームの広告から誘導される投資詐欺は日本でも多発しており、構造は米国のFTC報告書とほぼ一致する。
日本語に巧みな詐欺グループの参入や、生成AIを活用した自然な日本語テキスト生成の容易化を背景に、今後さらなる被害拡大が懸念される。プラットフォーム側のモデレーション強化に期待する一方、ユーザー側のリテラシー向上が現実的な第一防衛線となる。
筆者の見解
今回のFTCデータが示す最も重要な示唆は、「知識があれば防げる」という前提が崩れ始めているという点だ。ロマンス詐欺の60%がSNS起点、投資詐欺でAI生成の偽グループが動員されている現状は、「怪しいと感じる力」だけでは不十分になってきていることを意味する。
FTCが推奨する「プライバシー設定の見直し」と「購入前の企業名検索」は今すぐ実践できる対策として有効だが、より本質的にはプラットフォーム側が詐欺広告を出稿させない仕組みの整備が急務だ。個別のユーザーに防御の全責任を負わせるアプローチは、悪意ある行為者がAIでスケールしている現在の非対称な戦いには対応できない。
「禁止ではなく安全に使える仕組みを」という観点でいえば、SNSプラットフォームが本来の機能を維持しながら詐欺を構造的に排除できるかが問われている。8倍超という急増カーブを見れば、現状のモデレーションがまったく追いついていないことは明らかで、規制当局と事業者の双方にとって待ったなしの課題といえる。
出典: この記事は Social media scams cost Americans more than $2.1 billion last year, according to the FTC の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。