2026年5月、OneDriveの同期クライアントが静かに、しかし確実に変わる。削除されたクラウドファイルがPCのごみ箱に自動コピーされる現在の挙動が廃止され、サイトのごみ箱のみで管理されるシンプルな仕組みへ移行する。強制ロールアウトなので管理者の選択肢はないが、これは「知らずに困る」より「知っていれば得をする」変更だ。
現状の問題:ごみ箱が2か所存在するカオス
SharePoint OnlineやOneDrive for Businessのドキュメントライブラリからファイルが削除されると、現在の同期クライアントはローカルに同期されていたコピーをPCのごみ箱(macOSではTrash)に移動する。つまり、削除されたファイルは「サイトのごみ箱」と「PCのごみ箱」の2か所に存在するという、直感に反した状態になっていた。
さらに問題をこじらせるのが、サイトのごみ箱からファイルを復元しても、PC側のコピーはそのまま孤立した状態で残り続けること。サーバーとの接続が切れた「幽霊ファイル」として残り、ユーザーを混乱させてきた。ヘルプデスクに「ファイルが消えた」と問い合わせが来て、調べてみたらサイトのごみ箱には存在するのにPCのごみ箱にも別コピーがある——こういう事例に心当たりのある管理者も多いだろう。
5月以降の新しい動作
Microsoftのメッセージセンター(MC1269861、2026年4月3日告知)に記載された変更は明快だ。クラウド側でファイルが削除されたとき、OneDrive同期クライアントはローカルコピーをPCのごみ箱に移動する処理をやめる。代わりに、ローカルフォルダから単純に削除するだけになる。
削除されたファイルの「権威あるコピー」はサイトのごみ箱のみに一本化される。復元が必要なときは、SharePoint/OneDriveのサイトのごみ箱だけを確認すればいい。シンプルだ。
混乱しやすい2つの例外
この変更で影響を受けない重要なケースが2つある。
Files On-Demand(オンデマンドファイル)は対象外。 ローカルに実体を持たず、アクセス時にダウンロードする方式のため、同期クライアントが処理するローカルコピー自体が存在しない。この変更は無関係だ。
ユーザーがローカルコピーを手動削除する場合は従来通り。 ユーザーがローカルファイルをごみ箱に送ると、OSがPCのごみ箱に移動し、OneDrive同期クライアントがサーバー側をサイトのごみ箱に移動する。この動作は変わらない。
今回変わるのは「クラウド側でファイルが削除されたとき、ローカルコピーをどう処理するか」という点だけだ。
実務への影響
IT管理者へ: この変更はテナント設定でブロックできない。展開は2026年5月初旬から始まり、5月末までに全テナントへ完了予定だ。事前に社内ユーザーへのアナウンスを検討してほしい。特に「削除したファイルをPCのごみ箱で探す」習慣が定着しているユーザーがいる環境では、説明なしに「ファイルが消えた」問い合わせが増える恐れがある。
ヘルプデスク・エンジニアへ: ファイル復元の問い合わせ対応がシンプルになる。今後は「SharePointサイトのごみ箱を確認してください」の一言で完結する。PCのごみ箱とサイトのごみ箱の両方を確認させる二度手間がなくなるため、サポートフローの見直しを検討する好機だ。
大規模ドキュメントライブラリを抱える組織へ: Microsoftは同期パフォーマンスの向上も明言している。ファイル数が多いライブラリほど削除オペレーションの頻度が高く、ローカルコピーの移動処理が不要になることで同期クライアントの負荷が軽減される。体感できる改善があるかは環境次第だが、期待していい変更だ。
筆者の見解
OneDrive同期クライアントは、Microsoft 365の中で「本当に地道に良くなった」プロダクトのひとつだと評価している。2020年の差分同期(Differential Sync)導入以降、着実に改善を重ねてきた実績がある。今回の変更もその延長線上にあり、方向性は正しい。
「ごみ箱が2か所に分散する」という挙動は、技術的な経緯はわかっても、エンドユーザー視点では混乱の種にしかならなかった。「正しいコピーはどこか」という問いに対して「1か所だけ」と言い切れる設計に移行することは、シンプルに正解だ。
管理者がブロックできない強制ロールアウトである点は賛否あるかもしれないが、ユーザーの混乱を生む根本的な問題を直す変更であれば、設定オプションを増やすより「デフォルトで正しく動く」ほうがずっといい。設定項目が増えるほど、知らない管理者が損をする世界になる。
「禁止で対処するより、正しく安全に使える仕組みを整える」――IT管理の本筋はそこにある。今回の変更はその哲学と一致している。OneDriveがこういう地道な改善を続けている点は、素直に評価したい。
出典: この記事は OneDrive Sync Client Changes How It Processes Deleted Files の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。