PC Watchの「やじうまPC Watch」コーナー(劉 尭氏、2026年4月27日付)が、驚異的なDIYプロジェクトを紹介している。YouTuber「Dr.Semiconductor」が自宅の裏庭にある納屋をクラス100のクリーンルームに改造し、そこでDRAMを製造したという動画を4月21日に公開した。

なぜこの取り組みが注目されるのか

このプロジェクトの出発点は、現在進行中のDRAM価格高騰だ。生成AIブームによる爆発的な需要増に対し、DRAM市場はMicron・Samsung・SK hynixの3社による寡占体制が続いており、新規工場建設には数十億ドル規模の投資と数年の期間が必要なため、供給不足がすぐには解消されない構造的な問題がある。

「ならば自分で作る」というDr.Semiconductor氏の発想は、エンジニアリング的アプローチとして非常に示唆に富む。通常、半導体製造は巨大なファブが必要とされるが、個人が限られた設備で実際の製造プロセスを再現したことは、教育的・技術的な意義が極めて高い。

クリーンルームの構築と製造プロセス

PC Watchの紹介によると、Dr.Semiconductor氏は約2カ月前に納屋のクリーンルーム化動画を公開しており、水性エポキシコーティングによる壁面の粒子遮断とHEPAフィルタシステムの導入によってクラス100(1立方フィートあたり0.5μm以上の粒子が100個以下)を実現した。

DRAMの製造プロセスも本格的だ。シリコンウェハの洗浄・1,100℃での酸化膜形成から始まり、紫外線露光によるフォトリソグラフィ、ドライエッチング、有機物を徹底除去する「ピラニア洗浄」、950℃での20nm薄膜ゲート酸化膜形成、そしてアルゴンガスを使ったアルミニウム蒸着によるゲート・電気接点・キャパシタ形成まで、商業DRAMと同等の基本工程を踏んでいる。

海外レビューのポイント:達成できたこととこれからの課題

PC Watchの記事が伝えるテスト結果は以下の通りだ。

成果として確認された点:

  • ゲート電圧による電流出力レベルの制御を確認
  • 最大12.3ピコファラドという理論値に近い静電容量を実現
  • 数百nsでのキャパシタ急速充電(3Vまで)に成功

残存する技術的課題:

  • ソースとドレインの距離が短いことによる「パンチスルー」効果が発生し、高電圧での電流飽和が不完全
  • 電荷保持時間が約2ms(市販DRAMの64ms以上と比べ大幅に短く、高頻度リフレッシュが必要)

同氏は「自宅でもDRAMを製造できることは証明できたが、DOOMのようなゲームを動かすには至っていない」とまとめており、今後はセルを連結してより大きなアレイを構築し、PCへの接続を目指すとしている。

日本市場での注目点

このプロジェクトは特定の市販製品ではないため購入はできないが、日本のエンジニアや半導体業界関係者にとって以下の点が興味深い。

  • DRAM価格動向の直撃: AI需要によるメモリ価格高騰は日本国内のサーバー・PC市場にも影響が及んでおり、DDR5メモリの価格高止まりがデータセンター投資コストを押し上げている
  • 半導体人材育成への示唆: 日本でも半導体人材の育成が急務となっているが、製造工程を動画で可視化するこのアプローチは、次世代エンジニアへの技術継承コンテンツとして価値がある
  • サプライチェーンリスクの再認識: 3社寡占が生む供給脆弱性は、AIインフラ投資を計画する企業が真剣に考慮すべきリスク要因だ

筆者の見解

AI需要がDRAM価格を押し上げているという現実は、今まさに肌で感じているところだ。大規模なGPUクラスターにはHBM(高帯域幅メモリ)が不可欠で、その需要がDRAM全体の供給を逼迫させている。この構造的な問題に対して「じゃあ自分で作る」と踏み出したDr.Semiconductor氏の行動力には素直に敬服する。

技術的には、電荷保持2msという結果は市販品の64ms以上と比較すると大きなギャップがある。しかしそれは当然だ。現代のDRAMが到達した精度は、何十年もの研究開発と数十億ドルの設備投資の産物であり、個人が納屋で同等の性能を出せたら逆に問題だろう。重要なのは「基本的なDRAMを作れた」という事実であり、商業プロセスの本質を個人規模で再現したことの意義は計り知れない。

「情報を追うより実際に手を動かして試してみる」——このYouTuberのアプローチはまさにそれを体現している。半導体製造という最も高い壁の一つに、手製の道具で真正面から挑んだこの姿勢は、エンジニアとして見習うべきものがある。

また、このプロジェクトが暗示するDRAMの3社寡占問題は、日本のIT業界にとっても他人事ではない。AIインフラへの投資計画を立てる際、サプライチェーンの脆弱性を織り込んでおくことは、今後ますます重要な視点になるだろう。


出典: この記事は 【やじうまPC Watch】DRAMが高いので自作。納屋にクリーンルームまで構築したYouTuber現る の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。