米テクノロジーメディア Ars Technica は2026年4月24日、韓国メディア「Money Today」の報道を引用し、サムスンのスマートフォン事業(MX部門)が同社史上初めて単年赤字に転落する可能性があると伝えた。Galaxy S26シリーズが好調な売れ行きを見せているにもかかわらず、AI需要を震源とした半導体価格の高騰がスマートフォン事業全体を直撃している構図だ。

なぜ今、これが起きているのか——AI時代がスマホのコスト方程式を破壊した

スマートフォンが成熟期を迎えた現在、製品の差別化はかつてより難しい。かつてはアプリケーションプロセッサ(AP)が製造コストの最大要因だったが、AI時代の到来がこの構造を根本から変えた。

Ars Technicaの報道によると、モバイルデバイス向けの LPDDR5xメモリ はAIインフラにとって不可欠な部品となっており、NvidiaのVera AI CPU(2026年後半にGraceを置き換え予定)は最大1.5TBものLPDDR5xを搭載する。ラックスケールAIプラットフォーム1台分のCPU群が消費するRAM量は、Galaxy S26 Ultra(12GB)約4,600台分に相当するという。

データセンター向けとモバイル向けが同じ部品を奪い合う構図が生まれており、供給不足と価格高騰が同時進行している。

海外レビューのポイント——メモリコストの急騰と業界への波及

メモリ・ストレージコストが製造原価の3分の1超に

Counterpoint Research のデータとして、Ars Technicaは「2026年央のバジェットスマートフォンにおいてRAMコストが製造原価の3分の1以上を占めるようになった」と報じている。上位モデルでも20%超がメモリ関連コストとなっており、AI需要以前と比べてメモリ・ストレージコストはほぼ2倍に膨らんでいる。

半導体部門は逆に空前の好業績

Ars Technicaは、サムスンの半導体部門がMX部門とは対照的に過去最高益を更新していることも伝えている。2026年Q1の推定純利益は約380億ドル(5.72兆ウォン)で、前年同期比7倍超の規模だ。スマホ事業の苦境と半導体事業の爆発的好況が、同一企業内で同時進行するという異例の状況となっている。

供給不足は当面解消しない

日経アジアの予測として、Ars Technicaは2027年のDRAM生産量が需要の40%不足する可能性を報じている。サムスン・Micron・SK Hynixが増産を急いでいるが(サムスンはLPDDR4の生産を縮小してLPDDR5の供給増強を優先中)、世界の大手テック企業が一斉にAIコンピュートへの投資を加速している状況では、供給制約が近いうちに解消される見通しは薄い。

バジェット端末が直撃される

Ars Technicaによると、モトローラは最近バジェットスマートフォン「Moto G」シリーズの価格を最大50%引き上げた。同メディアは「低価格スマートフォンという概念そのものが今後数年で成立しなくなる可能性がある」と指摘している。

日本市場での注目点

日本市場においても、以下の点での影響が見込まれる。

  • ミドルレンジ・バジェット端末の値上がり: 国内で人気のSIMフリーバジェット端末(OPPO・Xiaomi等も同じ部品調達構造)は、軒並みコスト上昇の影響を受ける可能性が高い
  • 「格安SIM+安い端末」構成の見直し: バジェット端末の価格上昇が続けば、日本ならではの節約構成が成立しにくくなる。2〜3年スパンでの端末選びの見直しが必要かもしれない
  • Galaxy S26シリーズへの中長期的影響: 好調な販売にもかかわらず利益率が厳しい構造は、将来モデルの価格設定や機能取捨選択に影響する可能性がある

筆者の見解

スマートフォン事業は「枯れた技術」と思われがちだが、今回の件はAIインフラ投資がサプライチェーン全体を通じて想定外の場所に波及することを示している。

注目すべきは、サムスンが「被害者」でありながら同時に「受益者」でもある点だ。半導体部門が空前の利益を上げているということは、メモリ価格の高騰はサムスン自身が生産する部品の価値が上がっていることを意味する。垂直統合型の大企業であるがゆえの、なんとも皮肉な構造だ。

より本質的な問題は、AIへの投資競争が「一般消費者の手元のスマートフォン価格」にまで連鎖している点だろう。AIの恩恵を受けるためのアクセス端末が高価になるという逆説は、業界全体が向き合うべき課題だ。日本でも「バジェットスマホで十分」という選択肢が今後は成立しにくくなる可能性を、頭の片隅に置いておく必要がある。

サプライチェーンの一点でAI需要が爆発すると、それが波紋のように広がって全く別の市場を変形させる。こうした「AI時代の連鎖反応」を読む力が、これからの技術者・消費者双方に求められている。

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出典: この記事は Report: Samsung execs worried company could lose money on smartphones for the first time の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。