米テクノロジーメディア「Engadget」は2026年4月24日、メイン州知事ジャネット・ミルズ氏が、大規模データセンターの建設を2027年秋まで一時的に禁止する法案に拒否権を行使したと報じた。AI開発に欠かせないデータセンターインフラを巡り、米国内での規制論争が激化している。

法案の概要と知事の判断

今回拒否権が行使された法案(LD 307)は、消費電力20メガワット以上のデータセンター建設を2027年秋まで凍結し、州機関や関連団体がこの基準を超えるプロジェクトへの許可を発行しないよう義務付けるものだった。

Engadgetの報道によると、この法案はメイン州議会の上下両院で4月14日に可決されていた。ミルズ知事は一時的なモラトリアムへの支持を示していたものの、拒否権行使の理由として「ジェイ市の既存データセンタープロジェクトを適用外とする条項が含まれていなかった」点を挙げた。

知事は拒否権行使と同時に、法案で提案されていたのと同様の「メイン州データセンター調整評議会」の創設を求める大統領令に署名する意向を表明した。また、データセンターを州のビジネス開発税制優遇プログラムへの参加を禁止するLD 713には署名している。

全米に広がる規制の波

メイン州だけの動きではない。Engadgetの報道によると、少なくとも12の州が類似した立法を検討しているという。ニューヨーク州では新規データセンター建設を3年間以上禁止する法案が議会に提出されており、連邦レベルでもバーニー・サンダース上院議員(バーモント州・無所属)とアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員(ニューヨーク州・民主党)が、既存施設のアップグレードも含む建設モラトリアム法案を支持している。

一方、トランプ政権はAIインフラの早期整備を積極的に推進する立場を取っており、2026年3月のAI政策フレームワークでもデータセンターの建設・電力供給プロセスの迅速化を明記している。規制強化を求める州政府と推進を求める連邦政府の立場の乖離は鮮明だ。

日本市場での注目点

日本でも同様の議論は無縁ではない。急増するAIワークロードに対応するため、国内外の企業が大規模データセンターへの投資を加速しており、北海道や九州など冷却コストを抑えられる地域での誘致競争が本格化している。一方、電力インフラの逼迫や環境負荷を懸念する声も出始めている。

今回の法案が閾値とした「消費電力20MW」は参考になる数字だ。大規模AIのトレーニング・推論クラスターを持つデータセンターは容易にこの水準を超える。日本でも今後こうした基準に基づく議論が活発化する可能性は十分にある。米国の立法動向は日本の政策立案にも参照されるケースが多く、継続して注視しておきたい。

筆者の見解

今回の動きで注目すべきは、ミルズ知事が法案そのものへの反対ではなく「既存プロジェクトへの配慮が欠ける」という手続き論で拒否権を行使した点だ。データセンター建設を全面否定するのではなく、地域固有の事情を勘案しながら制度を整備しようとする現実路線が透けて見える。

筆者の基本的な見方として、「禁止アプローチは必ず失敗する」というものがある。電力消費や環境負荷への懸念はもちろん正当だが、一律の建設禁止は国際競争力の低下をもたらすだけで、AIインフラ整備という大きな潮流を止めることはできない。ミルズ知事が取った「評議会の設立」と「税制優遇からの除外」という二段構えのアプローチは、禁止ではなく枠組みを作るという点でよりバランスが取れていると言えるだろう。

AIエージェントが24時間自律的に動き続けるためには、データセンターという物理基盤が絶対に必要だ。電力と冷却の課題を技術革新によって解決しながら持続可能なインフラを整備していくことが、AIの本来的な価値を引き出す道になる。今回の米国の議論はその先行事例として、日本も真剣に受け止めるべきではないだろうか。


出典: この記事は Maine governor vetoes bill temporarily banning large data centers in the state の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。