2026年4月22日、ラスベガスで開催されたCloud Next ‘26において、DeloitteとGoogle Cloudは大規模なパートナーシップの拡大を発表した。両社は「エージェント変革専門プラクティス」を新設し、AIエージェントの本番導入をエンドツーエンドで支援する体制を整えた。Deloitteが実施した調査では、調査対象企業の約60%でAIツールが従業員に提供済みだという——まさに「実験の時代の終焉と、実運用の時代の幕開け」を告げるニュースだ。
Deloitteが選んだのは「エージェント型AI」という方向性
DeloitteはGemini Enterpriseを核に据え、戦略立案・プロセス再設計から実装、ガバナンス、採用促進まで一貫して支援する専門組織を立ち上げた。優先領域は小売、医療、金融サービス、政府・公共サービスの4分野で、DeloitteのAI統合サービスデリバリープラットフォーム「Deloitte Ascend™」を通じてサービスを提供する。
注目すべきは「1000以上の業界特化型AIエージェントのライブラリ」という規模感だ。汎用AIツールを横並びで展開するのではなく、特定の業務フローに最適化されたエージェントをあらかじめ大量に用意しておくアプローチは、エンタープライズ導入の加速に直結する。
A2Aプロトコルによるエージェント間連携という技術的フロンティア
とくに技術者として目を引くのが、GoogleのAgent2Agent(A2A)プロトコルの活用だ。A2AはAIエージェントが相互に通信・連携するための標準規格であり、単体のAIが孤立して動くのではなく、複数のエージェントがチェーンを形成してエンドツーエンドのワークフローを自律的に処理できるようにする。
これは「AIに指示して応答を受け取る」という単発のやりとりを根本的に超えるものだ。エージェントが自ら判断・実行・検証を繰り返すループを構成するための基盤技術であり、複数エージェントが連携してバリューチェーン全体を変革するというDeloitteのビジョンを支えている。A2Aはオープン仕様として公開されており、ベンダーをまたいだ連携も視野に入る。
内部活用から見えるコミットメントの深さ
Deloitteはすでに25,000人以上の自社プロフェッショナルにGemini Enterpriseを展開しており、最終的に100,000ライセンスへの拡大を計画している。クライアントに勧めるだけでなく自社でも本格運用するという姿勢は、技術への信頼度を測る重要なシグナルだ。
ゼブラ・テクノロジーズ(Zebra Technologies)との具体的な事例も公表されており、ワークフローのデジタル化・自動化に取り組む同社が「実験から本番運用へ」の移行を実証しつつある。Google DeepMindがDeloitteにフロンティアモデルへの早期アクセスを提供し、フィードバックをモデル改善に活かす仕組みも整いつつある。
実務への影響——日本のエンジニア・IT管理者が注目すべき3点
1. 「エージェントライブラリ」という発想を取り入れる 汎用AIツールを組織全体に展開するより、特定の業務フローに特化した小さなエージェントを積み上げていくアプローチが本番移行のカギになる。社内でAIエージェント展開を検討している担当者は、この発想の転換を早めに取り込む価値がある。
2. A2Aプロトコルの動向を追う マルチベンダー環境が前提の日本企業にとって、異なるエージェント間を標準化されたプロトコルで繋ぐA2Aは、ベンダーロックイン回避の観点からも重要な技術標準だ。今のうちからキャッチアップしておく価値がある。
3. SIerの役割変化に備える DeloitteのようなグローバルSIerがエージェント特化の専門組織を作るということは、従来型の「システム受託開発」から「AIエージェント設計・運用」への主戦場のシフトを意味する。受発注の構造自体が変わる局面を見据えた準備が必要だ。
筆者の見解
エンタープライズAIの話題で最近もっとも気になるのは、「どのモデルが優れているか」という性能競争よりも、「エージェントをどう自律的に動かし続けるか」という設計の問いだ。
DeloitteとGoogle Cloudの今回の発表は、その問いに対して大手コンサルが本格的に答え始めたことを示している。1000以上のエージェントライブラリ、A2Aによるエージェント間連携、自社への大規模展開——これらはすべて「自律的に動き続ける仕組み」への投資だ。
パイロットから本番への移行を阻む最大の壁は技術よりも「ガバナンスと信頼の構築」にある、とよく言われる。Deloitteの発表がGemini Experience Centerや前線展開エンジニア(FDE)の配置を含んでいるのは、技術提供だけでなくその信頼構築を包含しようとしているからだろう。
グローバルでは企業の60%がすでにAIを提供済みという現実を見ると、日本のIT現場がこの変革の波に正面から向き合えているかどうか、改めて問い直すべき時機にある。エージェントが判断・実行・検証を繰り返すループを設計できる組織こそが、次の競争力の源泉になる。「AIを試している」段階の組織は、そろそろ「本番で動かす仕組みを設計する」フェーズに足を踏み出すべきだ。
出典: この記事は Deloitte Accelerates AI Transformation on Gemini Enterprise With Dedicated Google Cloud Agentic Transformation Practice の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。