国際的な温室効果ガス排出基準「Greenhouse Gas Protocol(GHGプロトコル)」の改定をめぐり、AppleやAmazonをはじめとする60社超のテック企業が新ルールへの反対声明に署名したとEngadgetが報じた。報道はBloombergの取材をもとにしている。

GHGプロトコルとScope 2改定案とは

GHGプロトコルは、企業の温室効果ガス排出量を計測・報告するための国際標準フレームワークだ。排出源によって3段階に分類される。

  • Scope 1: 企業が直接保有・管理する排出源からの排出
  • Scope 2: 購入した電力・蒸気・熱・冷却に関わる間接排出
  • Scope 3: バリューチェーン全体にわたるその他の排出

今回問題となっているのはScope 2の改定案だ。現行ルールでは、企業は年間を通じて任意のタイミングで「再生可能エネルギー証書(REC)」を購入することで、電力由来の排出をオフセットできる。新ガイダンスでは、これを「地理的に近接した電源から、グリッド電力と同時に調達されたクリーンエネルギー」に限定する方向が検討されている。

改定支持派は「現行ルールでは企業が再生可能エネルギーへのコミットメントを実態以上に誇張しやすい」と主張。変更が採択されれば、早ければ2027年にも適用される可能性がある。

海外レビューのポイント:企業側の主張と批判

Engadgetの報道によると、共同声明に署名した企業側は「提案されたポリシーは持続可能性プログラムへの投資を減少させ、電力価格を引き上げる」と主張している。任意適用にとどめるよう求める内容だ。

一方、改定を支持する側から見れば、企業が既存の「証書購入」という会計的手法でグリーン企業を名乗れる現状こそが問題の本質だ。実際の電力消費と再エネ調達の時間的・地理的整合性を求める新ルールは、クリーンエネルギーの実効性を高めるための措置ともいえる。

日本市場での注目点

日本では2023年のGX推進法成立以降、大企業を中心にカーボンニュートラルへの対応が加速している。GHGプロトコルは日本の環境省が推奨する国際基準でもあり、今回の改定動向は国内企業のサプライチェーン開示(Scope 3含む)にも波及しうる。

また、AppleのサプライヤーやAmazonのAWS利用企業として、国内の製造業・IT企業も間接的な影響を受ける可能性がある。自社のScope 2報告方針やREC購入戦略を今から見直しておくべき局面だ。

GHGプロトコルの改定スケジュールは現時点で確定していないが、早ければ2027年適用という見通しが示されている。

筆者の見解

今回の件で気になるのは、「基準を緩くしてほしい」という要求の方向性だ。AppleもAmazonも、自社の持続可能性への取り組みを積極的にPRしてきた企業である。その彼らが報告基準の厳格化に反対するというのは、少なくとも表向きのメッセージと実態の間に何らかのギャップがあることを示唆している。

「基準が厳しすぎると投資が減る」という論理は、裏を返せば「現行の緩い基準があるから投資できている」ということでもある。それが本当にサステナビリティへの貢献なのか、それとも会計的なオフセットの積み重ねなのか——今回の議論はその問いを鮮明にした。

道のド真ん中を歩くという観点では、企業の実態に即した報告体制を整えることが長期的な信頼につながる。基準への対応コストを嫌がるよりも、その基準をクリアできる調達体制の構築に力を入れる方が、中長期的には競争優位になるはずだ。日本企業も他人事ではなく、この議論の行方を注視しておく価値がある。


出典: この記事は Apple, Amazon join push for looser greenhouse emissions reporting の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。