Cloudflareが4月20日、1週間にわたる「Agents Week 2026」を締めくくり、AIエージェント専用に設計されたインフラプリミティブを大量に公開した。推論・メモリ・音声・メール・ブラウザ操作からGit互換ストレージまで、エージェントが「一人前の仕事をするための環境」が一気に揃ったかたちだ。単なる機能追加ではなく、クラウドの設計思想そのものを書き換えるという宣言でもある。

Cloudflareが示した「Cloud 2.0」の全貌

これまでのクラウドは「1つのアプリが多数のユーザーを捌く」モデルを前提に設計されてきた。しかしAIエージェントの世界では発想が逆転する。1人のユーザーが複数のエージェントを並行・常時稼働させるのが当たり前になるからだ。

CTOのDane Knecht氏が指摘するように、世界中のナレッジワーカーが数個ずつエージェントを並行稼働させるだけで、数千万セッション規模のコンピュートが必要になる。従来型のサーバーレスやコンテナ設計では到底スケールしない。Cloudflareが8年前にWorkersで構築したコンテナレス・サーバーレス基盤が、まさにこの瞬間のために設計されていたというのは皮肉でもあり、必然でもある。

コンピュート:エージェントが「住む場所」

今回の目玉のひとつが Sandboxes GA(一般提供開始)だ。AIエージェントに対して、シェル・ファイルシステム・バックグラウンドプロセスを持つ「本物のコンピュータ」をオンデマンドで提供する。要求があれば起動し、中断した状態から再開できる永続的な実行環境だ。エージェントがコードを書き、テストし、デプロイするという一連のループを完全に自律して回せる。

あわせて公開された Artifacts(Git互換バージョン管理ストレージ)は、エージェントが生成したコードや成果物に「住所」を与えるものだ。数千万リポジトリの作成、リモートからのフォーク、任意のGitクライアントへのURL渡しに対応する。人間の開発者が使うGitワークフローとエージェントのワークフローをシームレスに接続できる点が重要だ。

セキュリティとエグレス制御

エージェントが外部サービスを呼び出す際のセキュリティも手当された。Outbound Workers for Sandboxesは、エージェントの外部通信に対してプログラマブルなゼロトラスト・エグレスプロキシを提供する。機密トークンを信頼できないコードに渡さず、動的にクレデンシャルを注入できる。企業がエージェントを本番環境に投入する際の最大の障壁のひとつが「外部APIアクセスのガバナンス」だったが、ここに明確な答えが出た。

Durable Object Facetsでは、動的に生成されたコードに対してそれぞれ独立したSQLiteデータベースを持つDurable Objectをインスタンス化できる。AIが生成したアプリを独立したステートフル環境で動かすプラットフォームが構築可能になる。

Workflowsの大幅強化

多ステップ処理の耐久実行エンジン「Cloudflare Workflows」は並行50,000セッション対応に拡張された。エージェントが複数の長時間タスクを並行して処理するシナリオを、インフラ側で支えられる規模になったということだ。

実務への影響

日本のエンジニア・IT管理者が注目すべきポイントは以下の3点だ。

エージェントインフラの選定が来年の差別化要因になる:今年はまだ「AIエージェントを試している」フェーズの企業が多いが、来年には実運用に移行する企業が増える。その時にサンドボックスや耐久実行基盤をどう選ぶかは、システム設計の根幹に関わる判断だ。

Gitとの連携は必須要件として評価すべき:Artifactsが示すように、エージェントが生成した成果物を既存の開発ワークフローに統合できるかどうかが実用性の分水嶺になる。PoC段階ではなく「本番に入れられるか」の基準でインフラを評価し直す時期だ。

ゼロトラスト前提のエグレス設計を今から習慣に:エージェントが外部APIを呼び出す際の認証・認可設計は、後付けでは困難になる。エグレス制御の仕組みをアーキテクチャに組み込んでおくことが、セキュリティ担当者への説明責任を果たす上でも重要だ。

筆者の見解

AIエージェントのインフラを語る上で、今回のCloudflareの一手が示す本質は「エージェントが自律的にループし続けるための基盤」が揃い始めたという点だ。単発の指示に応答するだけの「副操縦士」的なAIとは一線を画す、エージェントが自分で判断・実行・検証を繰り返すループ設計を支えるプリミティブが、インフラレベルで提供されつつある。

コンピュート(Sandboxes)・ストレージ(Artifacts)・実行制御(Workflows)・セキュリティ(Outbound Workers)が一気に揃ったことで、「エージェントが常時稼働する前提のシステム」を設計できる土台が現実のものになった。CLIやエディタからCloudflareプラットフォーム全体をエージェントが操作できる環境まで整備されているのも見逃せない。

これは特定のクラウドベンダーを推す話ではなく、エージェント時代のインフラが何を解決しなければならないかを示す具体的な事例として非常に参考になる。自社のエージェント基盤を設計する際の「チェックリスト」として読み直してほしい内容だ。

「情報を追いかけるより自分で動かして成果を出す」が正しい行動だと思っているが、今回のAgents Weekは追いかける価値のある発表が集まった週だった。各プリミティブのドキュメントを手を動かして確認することを強くすすめる。


出典: この記事は Building the agentic cloud: everything we launched during Agents Week 2026 の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。