SharePointの使いにくさに悩まされてきたすべてのIT担当者に、注目すべき動きが出てきた。2025年9月に登場した「Knowledge Agent」が「AI in SharePoint」としてリブランドされ、機能も大幅に強化された。自然言語でSharePointサイトの設計・構築が行えるようになるというこのアップデートは、「SharePoint難民」を量産してきた構造的な問題を正面から解決しようとする試みだ。

Knowledge Agentから「AI in SharePoint」へ——何が変わったのか

リブランドの最大のポイントは、自然言語によるサイト・ライブラリ・ページ・リストの設計と構築が可能になることだ。これまでSharePointのサイト構築は、情報アーキテクチャの知識を持つ専任担当者か、経験豊富なSharePoint管理者が担うのが一般的だった。列の追加、コンテンツタイプの設計、ナビゲーション構造の整理——これらすべてがGUIの迷路をくぐり抜ける作業であり、ビジネスユーザーが自力でやるには現実的でなかった。

「プロジェクト管理用のサイトを作りたい。進捗を管理するリストと、ドキュメントを整理するライブラリと、週次レポート掲載用のページが必要だ」——そういった要望を自然言語で伝えれば、AIがサイト構造を組み上げる。これが実用レベルで動くなら、SharePointの民主化が本当の意味で始まる可能性がある。

また、「ナレッジ管理」機能の強化も重要だ。組織内のドキュメントや情報をSharePoint上で体系的に整理・検索・提示する能力が向上し、単なるファイルサーバーとしての利用から、真のナレッジベースとして機能させる方向への転換が加速する。

なぜこれが重要か——日本のIT現場への影響

日本の中堅〜大手企業でSharePointを使っている組織は多い。しかし実態を見ると、「一応SharePointはある。でも誰も使い方を知らないし、ファイルが散らばっていて整理もできていない」という状況が珍しくない。SharePointのポテンシャルを活かしきれず、結果としてBoxやGoogle Driveと並行運用が続いているケースも多数ある。

その根本原因の一つが「設計・構築の難しさ」だ。ちゃんと使えるSharePoint環境を作るには相応の専門知識と工数がかかる。それがAIによる自然言語操作で大幅に下がるなら、放置されていたSharePoint活用が一気に動き出す可能性がある。

M365ライセンスを保有しているのにSharePointを使いこなせていない組織にとって、追加投資なしで活用レベルを引き上げられるチャンスになりうる。これはコスト観点でも無視できない。

実務での活用ポイント

1. まず「試してみる」環境を用意する AI in SharePointが自テナントで利用可能になったら、まず開発・検証サイトで動作を確認する。自然言語でどの程度の粒度まで指示できるか、生成されたサイト構造の品質はどうかを把握してから本番展開の設計に入る。

2. 既存の「使われていないSharePointサイト」の棚卸しに使う AIに「このサイトにどんな情報が入っているか要約・整理して」と聞けるなら、放置されてきた古いサイトの棚卸しにも活用できる。まずは情報整理ツールとして使い始めるアプローチが現実的だ。

3. ビジネスユーザーへの展開教育を見直す 自然言語で操作できるなら、従来の「SharePoint操作研修(GUIの使い方)」の価値が変わる。「何を実現したいかをAIに伝える方法」へと教育内容をシフトさせることを検討する時期だ。

4. Copilot for M365との組み合わせを前提に設計する AI in SharePointで整備したナレッジ構造は、Copilot for M365がRAG(検索拡張生成)する際の情報源になる。SharePointをきちんと整理することは、M365全体のAI活用基盤を整えることと同義だ。ナレッジ管理の品質がそのままCopilotの回答品質に直結する。

筆者の見解

MicrosoftがSharePointのAI機能を「Knowledge Agent」という名称から「AI in SharePoint」に変えた判断は正しいと思う。「エージェント」という言葉が氾濫し始めたこのタイミングで、機能をプロダクト名に紐付けたブランディングにシフトしたのは、ユーザーが機能を見つけやすくする意味でも理にかなっている。

SharePointはずっと「ポテンシャルはあるのに使われない」という問題を抱えてきた。UIの複雑さと設計の難しさが普及の壁になってきたわけだが、自然言語による構築支援はその壁を正面から崩しに来ている。Microsoftにはこういうことができる力がある。M365というプラットフォームと数億のユーザーベースを持っているのだから、AIをその中に深く組み込む方向性は正しい。

ただ、自然言語で生成されたサイト構造が「本当に使いやすいか」は別の話だ。AIが自動生成したサイト構造は、組織の業務フローに合っているとは限らない。生成結果を人間がレビュー・調整する工程を省くと、「AIが作ったけど誰も使わないSharePoint」が大量に量産されるリスクがある。

ツールがいくら賢くなっても、何をどう整理すれば組織のナレッジが活きるかを考える人間の役割は変わらない。AI in SharePointは「考える負荷を減らすツール」であって「考えなくていいツール」ではない。この点を組織内で正しく伝えながら展開できるかどうかが、成功と失敗を分ける鍵になるだろう。

MicrosoftのSharePoint周辺への投資は継続されており、この方向性は歓迎したい。あとは「使って良かった」という実績を積み上げていくフェーズだ。


出典: この記事は AI in SharePoint: Knowledge Agent Rebranded and Upgraded with Natural Language Site Building の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。