Microsoft Teams を音声通信インフラとして本格導入している組織にとって、見過ごせないアップデートが届いた。Microsoft Purview のデータライフサイクル管理(DLM)が、Teams の通話ログ(Call Detail Record:CDR)に対する保持・削除ポリシーの適用に対応する。ロールアウトは2026年4月末から開始予定だ。

これまでの「無期限保存」という盲点

Microsoft Teams は通話のたびに CDR ログを生成し、Exchange Online のメールボックス内に保存してきた。問題は、このデータがこれまでデフォルトで無期限に保存されていた点にある。

多くの組織はこの事実をあまり意識してこなかったかもしれないが、法規制の観点では深刻な問題になりえる。日本国内でも個人情報保護法や電気通信事業法の解釈によっては、通話関連ログの保存期間を明示的に定め、一定期間経過後に削除することが求められるケースがある。EU の GDPR や、金融・医療分野の業界規制はさらに厳格だ。「取っているだけ」「消し方がわからない」という状態は、コンプライアンス上のリスクを静かに積み上げていた。

Purview DLM で何が変わるか

今回の対応により、コンプライアンス管理者は Purview の既存のリテンションポリシー機能を使って、Teams 通話ログの保持期間と削除タイミングを明示的に定義できるようになる。

主なポイントは以下のとおりだ。

  • 既存の Purview ワークフローをそのまま活用:新しいツールや管理画面を覚える必要はない。すでに Exchange メールや SharePoint のデータに設定しているポリシーと同じ仕組みで管理できる
  • ユーザーの通話体験には影響なし:バックエンドのデータライフサイクル制御であり、エンドユーザーが気づく変化はない
  • デフォルトの無期限保存が終了:ポリシー未設定の場合の挙動が変わる可能性があるため、「何もしない」は選択肢にならない

実務への影響——IT管理者・コンプライアンス担当者がすべきこと

ロールアウト前に最低限やっておきたい準備が3つある。

1. 自社の規制要件を棚卸しする どの規制が自社に適用されるかを確認し、通話ログの保存期間について法務・コンプライアンス部門と合意を形成しておく。業種によっては「3年保存」「5年保存」のルールが存在するため、安易に削除ポリシーを設定しないよう注意。

2. Purview のリテンションポリシーを作成または更新する 機能がロールアウトされたら、Teams 通話ログを対象スコープに含んだポリシーを作成する。すでに Teams チャットや会議ログ向けのポリシーを持つ組織は、それを拡張する形で対応できる。

3. 内部ドキュメントを更新する コンプライアンス担当者や法務チームへの周知が不可欠だ。「Teams の通話ログはいつまで残るか」という問いへの答えが変わるため、ガイドラインや BCP 文書への反映も検討したい。

日本企業への具体的な示唆

国内の大手エンタープライズ企業では、PBX から Teams Phone への移行が進みつつある。その過程で「通話録音は管理しているが CDR ログは把握していない」というケースが意外と多い。CDR ログには発信先番号・通話時間・参加者情報などが含まれており、個人データとして扱うべき情報が混入している可能性がある。

Purview DLM の対応は、こうした「管理の空白地帯」を埋めるうえで素直に歓迎できる進化だ。Purview を既に使っている組織なら、追加コストなしにガバナンスの網を広げられる。

筆者の見解

Purview がカバーする範囲が着実に広がっていることは評価したい。Teams の通話ログは「存在は知っているが誰も管理していない」データの典型例であり、今回の対応でコンプライアンスの穴がひとつ塞がれる。

ただ、正直に言えば「なぜ最初から無期限保存がデフォルトだったのか」という疑問は残る。CDR ログに個人情報が含まれることは設計段階から明らかなはずで、規制対応は後追いになりすぎた感がある。Microsoft には、新機能の設計段階からデータガバナンスを組み込む「Privacy by Design」の徹底を、今後もっと強く期待したい。

とはいえ、Purview という統合プラットフォームで一元管理できる設計思想は正しい。ツールが乱立してデータの在り処が分散するよりも、ひとつの管理面で把握・制御できる方が運用コストは圧倒的に低い。Microsoft 365 を使い倒している組織ほど、この統合の恩恵を受けやすい構造になっている。

コンプライアンス対応は「やった後に気づいても遅い」世界だ。4月末のロールアウクを待たずに準備を進め、展開と同時に即適用できる状態を整えておくことを強くお勧めする。


出典: この記事は Microsoft Purview: Data Lifecycle Management - Retention support Microsoft Teams call logs - M365 Admin の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。