フィンランドのスタートアップDonut Labが年初に発表した固体電池の性能主張に対し、製造パートナー企業の元幹部が刑事内部告発を行ったと、フィンランド紙Helsingin Sanomat(HS)が2026年4月17日に報じた。Engadgetも同日この報道を取り上げている。
Donut Labとはどんな企業か
Donut Labは2026年初頭のCES期間中に、「量産体制に入れる固体電池技術を開発した」と発表し注目を集めたフィンランドのスタートアップだ。固体電池はエネルギー密度の高さと安全性から次世代EV・ポータブル機器の切り札として世界中の企業が開発を競っているが、量産化に成功した企業はほとんどなく、Donut Labの主張は業界内でも「大胆すぎる」として疑問視する声も当初からあった。
内部告発の概要
HSの報道によれば、刑事告発を行ったのはLauri Peltola氏。同氏はDonut Labの製造を一部委託されているとされるNordic Nano社で、最近まで最高商務責任者(CCO)として名を連ねていた人物だ。なお、Donut LabはNordic Nanoに投資もしている。
Peltola氏がフィンランド当局に提出した告発内容(HSが報道)の骨子は以下の通りだ:
- エネルギー密度・長寿命のスペック主張が誇大
- 以前に発表した量産能力を実際には持っていない
さらにHSは、Donut Labと2社のパートナー企業(CT-CoatingおよびNordic Nano)間の内部メール写しを確認したと述べている。それによると、Donut Labが宣伝に使い、フィンランド国立研究機関VTTに試験提供したバッテリーはCT-Coatingの第1世代セルだが、CT-Coating社はすでに同セルの開発を打ち切り、まだ初期開発段階にある新世代セルに注力していたという。つまり、Donut Labが「量産準備完了」と称していた製品は、パートナー企業からすでに見捨てられたバージョンだった可能性を示唆する内容だ。
各社のコメント
Donut Lab のMarko Lehtimäki CEOはHSの取材に対し、Peltola氏の告発を事前に把握していなかったと述べた。
Nordic Nano のEsa Parjanen CEOはPeltola氏の主張を全面否定。「彼の見解は会社と共有されておらず、そもそもPeltola氏はNordicのバッテリープロジェクトに関与していない」と反論した。
Donut LabとNordic Nanoは4月17日付の共同声明を発表し、「告発の正確な内容を把握していない」としつつ「犯罪行為も投資家への誤解を招く行為も一切行っていない」と全面否定。告発者(声明では名指しを避けているが事実上Peltola氏を指すとみられる)について「バッテリー技術や開発作業の全体像を理解する知識を持っていない」とも述べた。
日本市場での注目点
日本国内においても、固体電池は自動車メーカー(トヨタ・パナソニック等)やスマートフォン向け部品メーカーが活発に開発している分野だ。Donut Labの製品は現時点で日本市場への展開情報はなく、Amazon.co.jpでの購入なども不可能な段階。ただし、今回の一件は固体電池スタートアップへの投資・取引評価を行うビジネスパーソンや研究者にとって、海外スタートアップの技術主張をどう検証するかという観点で非常に示唆に富んだケースだ。
VTTのような国立研究機関に試験を依頼していたことは信頼性担保のための動きとして理解できるが、その試験サンプル自体が開発中断品だったとするならば、第三者評価の意味が大きく損なわれる。
筆者の見解
固体電池は「来年こそ量産」と言われ続けて久しい技術だ。Donut Labが年初に打ち出した「量産準備完了」という主張は、その文脈でセンセーショナルに受け取られた。だが、スタートアップが調達のために主張を盛ることと、刑事告発に値する虚偽陳述の間には大きな隔たりがある。今回の件は現時点ではあくまで告発という段階であり、司法の判断を待つべきだ。
一方で、内部告発者がパートナー企業の元幹部であること、HSが内部メールの写しを確認していると述べていることは、単なる憶測以上の実態がある可能性を示している。HSの続報と、フィンランド当局の対応を注視したい。
固体電池分野は夢が大きい分、誇大宣伝のリスクも高い。日本の企業や投資家が海外スタートアップのバッテリー技術主張を評価する際には、「誰が何をもってその性能を検証したか」を丁寧に問い直す姿勢が、今後ますます重要になるだろう。
出典: この記事は Donut Lab’s battery claims reportedly subject of whistleblower complaint の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。