米AI・データ分析企業PalantirのCEO、アレックス・カープ(Alex Karp)氏と共著者ニコラス・W・ザミスカ(Nicholas W. Zamiska)氏は2026年4月19日(現地時間)、自社公式Xアカウントに約1,000語に及ぶ「マニフェスト」を投稿した。米テックメディア「Engadget」はこれを「コミックブックの悪役のたわ言のようだ」と辛辣に報じ、世界的な議論を巻き起こしている。

書籍『The Technological Republic』の要約として投稿

このポストは、2025年に出版されたKarp氏らの共著『The Technological Republic: Hard Power, Soft Belief, and the Future of the West』(ニューヨーク・タイムズ ベストセラー第1位)の概要を22カ条にまとめたものだ。Palantirは米陸軍・ICE(移民税関執行局)・NYPD(ニューヨーク市警)など政府・軍事機関向けにAI駆動の防衛・監視ソフトウェアを提供する企業として知られており、その企業が公にイデオロギー的な主張を展開したことが注目を集めた。

22カ条の主な内容は以下のとおりだ。

  • 第1条: シリコンバレーは自国の繁栄を可能にした国に対して道徳的な負債を負っており、国防に参加する義務がある
  • 第4条: 民主主義社会が勝利するには道義的な訴えだけでは不十分。「ハードパワー」が必要であり、21世紀のハードパワーはソフトウェアで構築される
  • 第5条: AI兵器が作られるかどうかではなく、誰が何の目的で作るかが問題。敵対国は「演劇的な議論」に時間を費やさずに開発を進める
  • 第6条: 国家への奉仕は全市民の義務とすべきで、徴兵制の再導入も真剣に検討すべき
  • 第15条: 戦後のドイツ・日本の「牙抜き」は過剰な対応であり、是正される必要がある
  • 第21条: 「すべての文化は等しい」という新たな教義は、実際には欺瞞的である

Engadgetの評価:「奇妙かつ深刻に懸念される」

Engadgetのウィークエンド・エディター、チェイエン・マクドナルド(Cheyenne MacDonald)氏は、この投稿を「bizarre and deeply concerning(奇妙かつ深刻に懸念される)」と評し、「Palantirが何を標榜する企業なのかを、まだ知らなかった人にも明確に示すものだ」と指摘した。特に第21条の文化優劣論や第15条の日独再軍備論など、センシティブな主張が国際社会から批判を受けている。

日本市場での注目点

第15条で「戦後の日本の平和主義へのコミットメントが維持されれば、アジアの勢力均衡を脅かすことになる」と明言されており、日本のテクノロジー関係者にとっても無関係ではない内容だ。

Palantirは日本でも政府・民間向けにデータプラットフォーム「Palantir Foundry」「Palantir AIP」を展開しており、防衛省・自衛隊関連の案件にも注目が集まっている。今後の日本における政府調達やパートナーシップ交渉において、こうした同社のイデオロギー的立場が判断材料になる可能性もある。

また「AIは軍事・安全保障に使われることが前提であり、誰が先に開発するかが本質的な問いだ」というPalantirの主張は、日本のAI政策論議(内閣府AI戦略会議の動向など)とも接続する論点を含んでいる。

筆者の見解

Palantirのこのマニフェストで最も核心を突いているのは第5条だろう——「AI兵器が作られるかどうかではなく、誰が何の目的で作るかが問われている」という点は、技術者として正面から向き合うべき問いだ。AI開発に携わる立場として、技術が軍事・監視用途に使われうるという現実から目を背け続けることはできない。

ただし、だからといってPalantirのような「まず力ありき」の論理に全面的に乗ることにも慎重でありたい。AI兵器開発の是非についての「演劇的な議論」を一蹴する姿勢は、技術倫理の議論を封じ込める方向に働きかねない。

第15条の日本再軍備論については、日本のエンジニア・テック関係者として特に注意が必要だ。こうした思想を持つ企業が提供するプラットフォームを政府・公共機関が利用するとき、その技術的な中立性をどう担保するのかは、具体的に問われていく問題になる。

「誰が作るのか」という問いに対するPalantirの答えは「自分たちだ」というものだ。その答えに同意するかどうかは別として、この問い自体を日本のIT産業が深刻に受け止めていないことの方が、より大きな課題かもしれない。


出典: この記事は Palantir posted a manifesto that reads like the ramblings of a comic book villain の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。