ニューヨーク連邦準備銀行が2026年4月に発表した調査レポートが、職場における生成AI活用の「格差」を鮮明に浮かび上がらせた。AIが生産性を高めることは現場でも認識されつつある一方で、そのツールへのアクセスや研修機会が特定の層に偏在している実態が統計として示された。これは米国の話でありながら、日本のIT現場にとっても決して他人事ではない。

調査が示したAI活用の実態

ニューヨーク連銀が2025年11月に実施した「消費者期待調査(SCE)」の補足質問をもとにした本調査では、現在就業中の回答者のうち**39%**が過去12ヶ月以内に職場でAIツールを利用したと回答した。

この数字は一見高水準に思えるが、内訳を見ると格差が際立つ。

学歴・収入・雇用形態で広がる利用率の差

属性 AI利用率

大学卒業者 58.7%

非大卒者 22.9%

年収20万ドル超 66.3%

年収5万ドル未満 15.9%

フルタイム労働者 42.7%

パートタイム労働者 24.7%

大卒と非大卒の利用率差は実に2.5倍以上。高収入層と低収入層では4倍超の開きがある。AIが「すべての人の生産性を底上げするツール」と期待される一方で、現状はその恩恵が高学歴・高収入・フルタイムの労働者に集中している。

利用者の66%が「生産性向上を実感」

AIツールを実際に使っている層では、66%が「自分の生産性が上がった」と回答した。具体的には「タスクをより速く終えられる(40%)」「こなせるタスク数が増えた(22%)」という声が多い。一方で「まだ学習中のためむしろ時間がかかっている(19%)」という回答も見られ、学習コストの問題が依然として残っていることもわかる。

「研修提供16%」という現実

調査で最も注目すべきは、**雇用主によるAI研修の提供率がわずか15.9%**という数字だ。

就業者の38%が「AIツールの使い方に関する研修は重要だ」と答えているにもかかわらず、実際に研修を受けられる環境にある人は6人に1人にも満たない。さらに37%は「職場がAIツールを提供していない」、11%は「雇用主が積極的に使用を禁止している」と回答しており、ツール自体へのアクセス障壁も根強く残っている。

非大卒層が研修に年収の11.4%相当の価値を感じている逆転現象

特筆すべきは、最もAIを使えていない非大卒の労働者が、AI研修に年収の11.4%相当という高い価値を置いているという発見だ。使えていないからこそ潜在的な恩恵を強く認識しており、「学びたいのに機会がない」という状況が浮かび上がる。研修を望む理由としては「仕事が楽になる(68%)」「生産性が上がる(56.7%)」が上位を占め、「AIを使わない仕事は将来的に少なくなる(39.2%)」という危機感を持つ人も4割に迫る。

日本のエンジニア・IT管理者にとっての意味

この調査は米国のデータだが、日本の職場環境と照らし合わせると示唆に富む点が多い。

企業としての喫緊の課題は、AIツールへのアクセス整備と研修機会の提供だ。 「禁止」や「様子見」は問題を先送りするだけで、格差を拡大させる方向にしか働かない。使いたい社員が公式に提供されたツールを安心して使える環境を整えることが、企業としての優先事項になる。

IT管理者の観点では、「誰が使えていて、誰が使えていないか」を可視化することが出発点になる。アクセスや研修の機会が特定の部門や役職に偏っていないか、定期的に確認する仕組みが必要だ。

研修設計においては、「ツールの操作方法」よりも「業務の中でどう活かすか」という実践的な内容を中心に置くと定着しやすい。40%の利用者が「タスクを速く終えられる」と答えている背景には、自分の業務文脈に落とし込む試行錯誤の積み重ねがある。

筆者の見解

この調査を読んで改めて感じるのは、「禁止」や「未提供」という選択がいかに企業自身の競争力を削ぐかということだ。

「AIツールを禁止している」という11%の企業は、おそらく情報漏洩やコンプライアンスへの懸念から出た判断だろう。その懸念自体は正当だ。しかし禁止した瞬間に、社員はシャドーIT的に個人アカウントで使い始めるか、使うこと自体を諦める。前者はむしろセキュリティリスクを高め、後者は生産性向上の機会を逃す。どちらに転んでも企業にとって良い結果にならない。

正しい方向性は「安全に使える仕組みを先に整える」ことだ。社内データをAIに入力する際のガイドライン、承認されたツールの一覧、簡単な研修コンテンツ——このくらいのものを揃えるだけで、多くのリスクはコントロール可能になる。整備が先、解禁は後、ではなく、整備と並走しながら段階的に解禁していく動き方が現実的だ。

もう一点、この調査が示す「格差の固定化」リスクも看過できない。高学歴・高収入層がAIを使いこなし、そうでない層がアクセスできないまま時間が経過すると、AIはむしろ格差を拡大する道具になってしまう。AIが本来持つ「専門知識を持たない人でも高度な作業ができるようにする」というポテンシャルが、アクセス格差によって逆説的に活かされない状況だ。

調査が示す「非大卒層が研修に最も高い価値を感じている」という事実は、そのポテンシャルへの正確な期待値の反映だと思う。彼ら・彼女らが最も多くを得られる立場にいながら、機会が届いていない。ここに企業が介入する意義がある。

「情報を追うより、実際に使って成果を出す経験を積む」——これが個人レベルでの正解だとすれば、企業レベルでの正解は「使いたい人が使える環境を作る」だ。研修を16%しか提供できていない現状は、まだ多くの余地が残っていることを示している。逆に言えば、今ここに投資できる企業には大きなアドバンテージがある。


出典: この記事は Use of Gen AI in the Workplace and the Value of Access to Training の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。