ブラウザの「戻る」ボタンを押したはずが、広告ページに飛ばされた経験はないだろうか。Googleはこの手口——いわゆる「バックボタン乗っ取り(Back Button Hijacking)」——が急増していることを確認し、対象サイトへのペナルティ適用を開始すると発表した。ユーザー体験の保護という観点から、見逃せない動きだ。

バックボタン乗っ取りとは何か

バックボタン乗っ取りは、ブラウザのHistory APIを意図的に操作する手法だ。サイトがページ遷移の履歴を書き換えることで、ユーザーが「戻る」を押した瞬間に前のページではなく広告や別のランディングページへリダイレクトさせる。

仕組み自体は単純で、JavaScriptのhistory.pushState()history.replaceState()を乱用することで実現できる。本来これらのAPIはSPA(シングルページアプリケーション)のルーティングなど正当な用途のために用意されたものだが、収益目的で悪用されるケースが後を絶たない。

Googleは今回、この手口の急増を明確に問題視し、検索品質の観点からペナルティの対象とする方針を打ち出した。

なぜ今、Googleが動いたのか

Googleのコアアルゴリズムはここ数年、E-E-A-T(Experience・Expertise・Authoritativeness・Trustworthiness)の強化に力を注いできた。バックボタン乗っ取りは「Trustworthiness(信頼性)」を直接的に破壊する行為であり、放置すれば検索結果全体の信頼性が毀損される。

また、スマートフォンでの利用が主流となった今、ブラウザの物理的な「戻る」ジェスチャーを乗っ取られることはPCよりも不快感が強い。Googleにとっても、自社の検索経由でユーザーが不快な体験をさせられることは看過できなかったはずだ。

実務への影響——Webサイト運営者・開発者が今確認すべきこと

既存サイトの点検が急務

ペナルティの詳細な基準はまだ公表されていないが、以下のパターンに心当たりがあれば早急に修正すべきだ。

  • history.pushState()を広告表示のためだけに使っている
  • ページ離脱時に意図せずリダイレクトが発生する処理がある
  • サードパーティの広告SDKやアドネットワークを導入しており、その挙動を把握していない

特に最後の点が見落とされがちだ。自社でコードを書いた覚えがなくても、組み込んだ広告タグが裏でHistory APIを操作しているケースが実際に存在する。

SPAフレームワーク利用者は誤検知に注意

ReactやVue、Next.jsなどのSPAでは、クライアントサイドルーティングのためにHistory APIを正当に使う。Googleがどこまでを「悪用」と判断するかは今後の動向次第だが、UX上の理由のないpushStateの呼び出しは今すぐ棚卸しする価値がある。

Google Search Consoleの活用

ペナルティを受けた場合、Search Consoleの「手動対策」セクションに通知が来ることが多い。定期的な確認を習慣化しておくと早期発見につながる。

筆者の見解

正直なところ、この対応は遅すぎた——とはいえ、今からでも意味はある。

バックボタン乗っ取りは「ユーザーの意図に反する操作を強制する」という点で、フィッシングサイトに次ぐレベルの不誠実さだと個人的には思っている。ユーザーはブラウザの戻るボタンを「必ず前に戻れる」という信頼のもとで押している。その信頼を広告収益のために踏み台にする行為は、Webというインフラそのものの品質を下げる。

Googleの今回の判断は、「禁止ではなく仕組みで対処する」という正攻法だ。行儀の悪いサイトを検索結果から遠ざけることで、ユーザーが自然と質の高いサイトへたどり着けるようにする。これはWebのエコシステムを健全に保つための正しいアプローチだと思う。

日本のWebサイト・サービス運営者にとっても他人事ではない。特にアドネットワークを複数組み合わせているメディアサイトは、自社サイトが知らぬ間にペナルティ対象になっていないか、今週中に確認しておくことを強くお勧めする。

Webの信頼性はインフラだ。誰かが守らなければ全員が損をする。Googleがここに踏み込んだことは、業界全体にとってプラスの一手だと評価したい。


出典: この記事は Google will now punish websites that hijack the back button to serve you ads の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。