Azure Kubernetes Service(AKS)において、Kubernetes 1.35 が正式版(GA)として全リージョンへのロールアウトを開始した。新バージョンの到来と同時に、現在運用中のクラスターを使い続けているチームが注目すべきは「終わる側」のニュースだ。Kubernetes 1.32 の標準サポートは 2026年4月30日に終了する。残り時間はわずかである。
Kubernetes 1.35 で何が変わるか
Kubernetes 1.35 では、Pod レベルのリソース管理やノードのライフサイクル制御にまつわるいくつかの機能がステーブルに昇格している。特に注目したいのは以下の点だ。
- Sidecar コンテナの Stable 化: 1.33 で Beta に到達していたサイドカーコンテナ機能が、より安定した動作保証を得た。ロギングエージェントやサービスメッシュのプロキシをサイドカーとして扱うユースケースでの本番投入障壁がさらに下がる
- リソース管理の精緻化: CPU・メモリの要求値と上限値の扱いが改善され、バースト可能なワークロードの調整が以前より直感的になっている
- セキュリティコンテキストの強化: コンテナ実行時の権限制御に関わる API がより細かく操作できるようになり、最小権限原則の実装がしやすくなった
AKS 固有の観点では、ノードプールの OS ディスク管理や、Azure CNI Overlay との組み合わせにおける安定性が引き続き改善されており、大規模クラスターを運用する環境ほど恩恵が大きい。
1.32 サポート終了——「後で」では間に合わない
1.32 の標準サポート終了後は、セキュリティパッチやバグ修正の提供が打ち切られる。AKS のサポートポリシーは原則として「N-2」、つまり最新から2世代前まで。1.35 が GA となった今、1.32 はその枠の外に出ていく。
アップグレードの手順自体はドキュメント化されているが、実際の現場ではいくつかの落とし穴がある。
- 非推奨 API の除去: バージョンを跨ぐと以前使えた API バージョンが廃止される場合がある。
kubectl api-versionsとkubectl deprecations(Pluto 等のツール)で事前スキャンを行うこと - ノードプールの段階的更新: コントロールプレーンを先に上げ、その後ノードプールを更新する順序を守る。一気に飛ばすと予期せぬ非互換が発生しやすい
- PodDisruptionBudget の確認: ノードのローリングアップデート時に PDB が厳しく設定されていると、更新が止まる。事前確認は必須
実務への影響——日本のエンジニア・IT管理者にとっての意味
日本の企業 IT においても、コンテナ基盤の本番採用は着実に増えている。特に金融・製造・流通の大手では、AKS をマイクロサービス基盤として採用しているケースが増えてきた。そのような環境でバージョン管理を後回しにすると、年次の監査で「サポート切れ基盤の稼働」という指摘を受けるリスクが生じる。
明日から使えるアクションポイント:
az aks get-versions --location japaneastで利用可能なバージョンを確認し、現行クラスターのバージョンとの乖離を把握する- AKS の Auto-upgrade チャンネル(
patchまたはstable)を設定していない場合、この機会に設定を検討する。手動管理より運用負荷が大幅に下がる - 複数クラスターを抱える環境では、Azure Policy や Azure Monitor を使ったバージョン監視の自動化を仕組みとして整備する
筆者の見解
AKS を含む Azure のコンテナ基盤は、インフラストラクチャとしての信頼性という意味では着実に成熟してきた。Kubernetes 1.35 の GA 自体は「予定通りのリリース」であり、ことさら驚くニュースではない。だが、1.32 のサポート終了が4月30日という目前に迫っていることは、現場のエンジニアにとって無視できない締め切りだ。
気になるのは、バージョン管理が「担当者が覚えている」に依存している現場がまだ多いことだ。クラスター数が増えると、人力での追跡は必ず破綻する。Auto-upgrade の仕組みを整備し、監視を自動化する——この「仕組みで回す」設計こそが、今の時代のインフラ管理の基本だと思っている。
Kubernetesのバージョンアップはアプリケーションの互換性検証を伴うため、ゼロコストではない。だからこそ、早め早めに動き、本番環境で慌てる事態を避けてほしい。AKS が提供しているアップグレードの仕組みは十分に整っている。あとはそれを使うかどうか、だ。
出典: この記事は AKS Kubernetes version 1.35 now generally available の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。