17カ国・5,000人のIT意思決定者を対象にした大規模調査が、セキュリティ業界の根本的な問題を浮き彫りにした。Sophosが発表した「Cybersecurity Trust Reality 2026」レポートによると、大多数の組織が自社のサイバーセキュリティベンダーを「完全には信頼していない」という現実が明らかになった。透明性・説明責任・リスク管理——どれをとっても、ベンダーへの期待と現実の間には大きなギャップが存在する。
調査が示した「信頼の溝」
セキュリティベンダーとクライアント企業の間に横たわる信頼の問題は、長年業界で語られてきた。今回の調査はその実態を数字として可視化した点で意義深い。
信頼を損なっている主な要因として、調査では以下が浮かび上がっている:
- 透明性の欠如: 自社製品の限界や既知の脆弱性について十分な開示がない
- 説明責任の曖昧さ: インシデント発生時の責任の所在が不明確
- 脅威環境への追従不足: 急速に進化する攻撃手法に対し、提供ソリューションが後手に回る
なぜこれが日本のIT現場に刺さるのか
「製品を入れれば安全」という幻想への強烈な警告——これが今回の調査の本質だ。
日本の大企業では、この問題はさらに複雑な様相を呈する。レガシーなオンプレミスのセキュリティモデルとクラウド時代の新しいアーキテクチャが混在し、中途半端なゼロトラスト実装が上乗せされることで、全体像を把握している担当者すら不在という状況が生まれやすい。そこにベンダー製品を積み重ねると、複雑性だけが増大し、何が何を守っているのかすら分からなくなる。
実務への影響——「賢い買い手」になる
1. SLA・インシデント対応の透明性を契約に明記する
「何かあったときにどうするか」を曖昧にしたまま契約するのはリスクそのものだ。レスポンスタイム、エスカレーションパス、情報開示の範囲を契約段階で明確化しておくことが必須になる。
2. ゼロトラストアーキテクチャとの整合性を確認する
ベンダー製品がゼロトラストの思想と整合しているかを問い直す機会だ。境界防御型の製品を惰性で追加しても、現代の脅威には対応できない。ネットワーク層・認証層・認可層の3層で整理し、各製品が本当に必要かを見極める。
3. Just-In-Time(JIT)アクセスを軸に据える
常時アクセス権の付与は特権アカウント管理における最大のリスクだ。ベンダーが提供するソリューションがJITをサポートしているか、自社のIDaaS環境と統合できるかを確認したい。
4. 部分最適の積み重ねに注意する
複数ベンダーの製品が乱立すると、全体最適ではなく部分最適の積み重ねになる。統合管理の視点から、あえてベンダーを絞ることも有力な選択肢だ。
筆者の見解
ベンダーを信頼できない最大の原因は、そもそも「なんのためにこの製品を入れているのか」が購入側に明確でないことにある、というのが正直なところだ。要件定義が甘いまま営業提案ベースで導入を決め、インシデントが起きてから「これって対応してたんじゃないの?」となるサイクルが繰り返されている。
ゼロトラストは「概念」として語られても「実装」として根付いていないケースが多い。VPNを廃止してIDベースのアクセス制御に移行するだけでも、セキュリティの質は劇的に変わる。特定の製品への依存より、アーキテクチャの思想を先に固める——その順序を間違えると、高い製品を買っても安全にはなれない。
ベンダーへの不信が高まる今、求められているのは企業側が「賢い買い手」になることだ。信頼は与えられるものではなく、検証するものだ——これはゼロトラストの本質であり、ベンダー選定にもそのまま適用される原則だと思う。製品を「使いこなす」組織だけが、本当の意味でセキュリティを確保できる時代になった。
出典: この記事は Most Organizations Do Not Fully Trust Their Cybersecurity Vendors の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。