AIインフラをめぐる地政学リスクが、もはや「仮定の話」ではなくなった。イランが2026年4月、OpenAI・SoftBank・Oracleの共同出資による巨大AIデータセンタープロジェクト「Stargate」を名指しで攻撃対象に挙げた。すでにAWSやOracleの実際の施設がミサイルの被害を受けており、この警告は単なるブラフとは言い切れない状況だ。

Stargateとは何か——なぜ標的になったか

Stargateは2025年1月に発表された、総投資額5,000億ドル規模のAIデータセンター建設計画だ。OpenAI・SoftBank・Oracleが組んだジョイントベンチャーで、AIモデルの学習・推論に必要な大規模コンピューティングリソースを整備することを目的としている。アメリカ国内だけでなく、中東を含む国際展開も進めていた。

イラン軍報道官Ebrahim Zolfaghariのビデオには、UAEのStargateデータセンターを映した地球儀の映像が映し出され、「どれだけ隠しても我々の視界に入る」とのメッセージが添えられていた。「Googleを使っても隠せない」という挑発的な一文は、オープンソースインテリジェンス(OSINT)の活用を示唆しており、物理的な偵察能力だけでなく、デジタル情報を活用した標的特定が行われていることを意味する。

すでに現実化している被害

今回の警告が深刻なのは、すでに実被害が出ているからだ。バーレーンのAWS(Amazon Web Services)データセンター、ドバイのOracleデータセンターがすでにミサイルの直撃を受けている。NvidiaやAppleも名指しで脅迫を受けており、大手テクノロジー企業が軍事的な標的として扱われるという、これまでの常識を覆す事態が起きている。

発端は2026年2月に始まった米・イラン間の軍事的対立だ。ホルムズ海峡の封鎖が世界のサプライチェーンに影響を及ぼし、トランプ大統領が「期限までに再開しなければ民間インフラを攻撃する」と警告したことへの応報として、イランはクラウドインフラを標的に挙げた。

実務への影響——日本のIT部門が今日から考えるべきこと

「うちは中東のデータセンターなんて使っていない」と思う方も多いかもしれない。しかし注意が必要な点がいくつかある。

依存関係の可視化が急務:利用しているSaaSやクラウドサービスが、どのリージョンのインフラに依存しているかを把握しているだろうか。一見無関係に見えるサービスが、中東リージョンのバックボーンやCDNノードを経由しているケースがある。

マルチリージョン・マルチクラウドの再評価:「コスト最適化」の文脈でシングルリージョン集約が進んでいる企業も多い。地政学リスクの観点から、これを見直すタイミングかもしれない。

BCPにサイバー物理攻撃を含める:これまでのBCP(事業継続計画)はサイバー攻撃や自然災害を想定していた。物理的な軍事攻撃によるデータセンター停止も、大規模クラウドプロバイダーを使う以上は考慮対象になりつつある。

SoftBankの立ち位置に注目:Stargateの主要出資者であるSoftBankは日本企業だ。プロジェクトが地政学的混乱で遅延・縮小した場合、日本のAIインフラ整備計画にも波及する可能性がある。

筆者の見解

AIインフラの集中化が進めば進むほど、そのインフラを攻撃することが最大の戦略的効果を生む——今回の事態は、その冷徹な論理を突きつけている。

かつて「クラウドは安全」という言説は、主にサイバーセキュリティの文脈で語られてきた。しかし今、物理的・軍事的な意味での「インフラの安全保障」が問われている。特定地域に巨大なAIコンピューティングリソースを集中させることのリスクは、電力コストや通信レイテンシだけで議論できる話ではなくなった。

より根本的な問いとして、「AIの計算資源をどこに置くか」という判断は、今後のグローバルITインフラ設計において戦略的な次元を持つようになる。分散配置はコスト増につながるが、単一の地政学的リスクが全体に影響しない設計の価値が再評価されるはずだ。

また、今回のイランの行動が示す最も重要な点は「インフラの見える化=攻撃可能性の向上」という現実だ。公開情報やOSINTだけで商業データセンターの位置を特定し、軍事作戦の標的に組み込む——この手口は今後も踏襲されうる。クラウドプロバイダーが施設の物理的な詳細を公開する文化は、平時には透明性として歓迎されるが、有事においては別の意味を持つ。

日本のIT担当者にとって、今すぐ変えられることは多くない。しかし「自分たちが依存しているクラウドはどこにあり、何に支えられているか」を把握しておくことは、平時から続けるべき地道な取り組みだ。このニュースをきっかけに、クラウド利用の依存関係を棚卸しする機会にしてほしい。


出典: この記事は Iran threatens ‘Stargate’ AI data centers の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。