Microsoft Entra IDに新たなGAアップデートが届いた。「External Multifactor Authentication(外部MFA)」が正式リリースとなり、組織が現在使っているサードパーティMFAプロバイダーをそのまま活かしながら、Entraの条件付きアクセスポリシーに準拠できるようになった。ゼロトラスト移行を検討している日本企業にとって、これは無視できない選択肢だ。
外部MFAとは何か
Microsoft Entra IDの「外部MFA(External Multifactor Authentication)」は、Entra ID内蔵のMFA(Microsoft Authenticatorなど)ではなく、DuoやOkta、RSA SecurIDといったサードパーティのMFAソリューションを使いながら、Entraの多要素認証要件を満たせる仕組みだ。
従来は「外部認証方式(External Authentication Methods)」という名称だったが、今回のGA昇格にあわせて機能が拡充・整理された。
仕組みとしては、条件付きアクセスポリシーで「MFA必須」と設定した場合でも、外部プロバイダーによる認証が完了していれば要件を満たしたものとして扱われる。Entra IDが発行するトークンに対して、外部MFAの完了を示すクレームが付与される形だ。
同時に押さえておきたい2026年3月のアップデート群
今回のリリースノートには外部MFAのGA以外にも注目すべき動きがある。
パスキー同期がGA
FIDO2ベースの**同期パスキー(Synced Passkeys)**がGAとなった。iCloudキーチェーンや1Passwordなどのサードパーティパスキープロバイダーに保存したパスキーを、複数デバイス間で同期しながらEntra IDの認証に使えるようになった。デバイス紐付けパスキーと同期パスキーは、管理者がポリシーで使い分けを制御できる。
Entraバックアップ&リカバリーがPublic Preview
誤操作やセキュリティインシデントによるテナント設定の破損を自動復元する「Entra Backup and Recovery」がPublic Previewに入った。ユーザー・グループ・アプリ・条件付きアクセスポリシーなどの重要オブジェクトを日次バックアップ(P1/P2ライセンスで5日間保持)し、差分レポートと復元ジョブで元に戻せる。
Entra Kerberos によるハイブリッド参加がPublic Preview
Entra Connectの同期やAD FSを待たずに、プロビジョニング時点でWindowsデバイスをすぐにHybrid Entra Joinできる新機能。レガシーなフェデレーション依存から脱却する道筋が見えてきた。
実務への影響
日本の大企業・官公庁では、RSAトークンやDuoをすでに全社展開しているケースが多い。これまでは「Entra IDに完全移行しないと条件付きアクセスのMFA要件を満たせない」というハードルが移行の足かせになっていた。外部MFAのGAにより、既存のMFA基盤を維持したまま段階的なゼロトラスト移行が現実的な選択肢になる。
エンジニア・IT管理者が今すぐ確認すべきこと:
- 現行MFAプロバイダーが外部MFAに対応しているか確認 — Microsoftの認定外部プロバイダーリストを確認し、現用製品がサポートされているか確認する
- 条件付きアクセスポリシーの見直し — 外部MFAを活用するには、ポリシー側で「認証強度(Authentication Strength)」の設定を正しく構成する必要がある
- パスキーの試験導入 — 同期パスキーGAを機に、パスワードレス認証のPoC開始を検討する好機だ
- Entraバックアップの有効化確認 — Public Previewだが即日オンにしておく価値はある。テナント設定を壊した後悔をする前に
筆者の見解
正直に言う。この外部MFA対応は、Microsoftが「現実を認めた」アップデートだ。
日本の大企業が「Entraに移行したいけどDuoの契約が3年残ってる」「RSAトークンを全社員に配り直す予算がない」という現実に直面しながらゼロトラスト移行を止めていた状況は、ずっとおかしかった。認証基盤の刷新を「一気にやらなければならない」という強迫観念が、むしろセキュリティ改善を遅らせてきた。
ゼロトラストの本質はネットワーク境界への依存をやめることだ。MFAプロバイダーがどこのベンダーかは本質じゃない。条件付きアクセスが正しく動いているか、Just-In-Timeで適切な認可が下りているか——そこが問われる。外部MFAはその実現を「今持っている資産で」始めるための現実解だ。
ただし、勘違いしてほしくないのは、これが「VPNとオンプレADを延命させるための言い訳」になってはダメだということ。外部MFAを使いながらも、中長期では認証基盤をEntra IDに集約していく方向性は変えるべきではない。移行の入口として使うのか、現状維持の口実にするのかで、3年後の姿が全然違ってくる。
Entraバックアップの話は別で純粋に嬉しい。テナント設定を管理コンソールで誰かが誤操作してぶっ壊す事故、一度でも経験した人なら分かるはず。「神頼みの手動復元」から「定期スナップショットからの差分復元」に変わるのは、運用品質の話として本当に重要だ。Public Previewとはいえ今すぐ有効化しておくべきだと思う。
Microsoftへの辛口コメントも続けるが、このEntraまわりのアップデートの着実さは評価している。エージェントの管制塔としてのEntra IDという方向性は正しい。がんばれマイクロソフト。
出典: この記事は External Multifactor Authentication (External MFA) Now Generally Available in Microsoft Entra の内容をもとに、筆者の見解を加えて独自に執筆したものです。