AIはコードを書く。でも「学び」も奪っている

AIツールがエンジニアリングの現場に急速に浸透するなか、見落とされがちな問題が静かに広がっている。AIが得意とするタスクの多くが、かつてジュニアエンジニアが「判断力」や「直感」を身につけるために経験してきた仕事そのものだという事実だ。

QCon London 2026でAlasdair Allanが行った講演の内容が、業界関係者の間で大きな反響を呼んでいる。

アモデイ予言の検証

Anthropicの共同創業者でRLHF(人間のフィードバックによる強化学習)の共同発明者でもあるDario Amodeiは、昨年「3〜6ヶ月以内にAIがすべてのコードの90%を書くようになる」と予言した。6ヶ月後、彼は「少なくともAnthropic社内では正しい」と主張した。

しかし実態はどうか。Redwood Researchの詳細な分析によれば、リポジトリにコミットされたコードだけでカウントすると、AI生成コードは約50%にとどまる。90%という数字は、一時的に使われただけの使い捨てスクリプトや探索的なコードを含めた場合にのみ成立する。

実際の企業データでも、Googleは内部コードの約25%、Microsoftは約30%、GitHub Copilotのエンタープライズ向け提案受け入れ率も約30%と報告している。「ほぼすべて」には程遠い数字だ。

生産性の「錯覚」

一方でAIの活用が現場に浸透していることは事実だ。Anthropic社内ではエンジニアの59%が日常業務でClaudeを使用し、50%の生産性向上を実感していると報告。GitHubのパブリックコミットの約4%はすでにClaude Codeが書いたものだという。

ところが昨年7月、業界に衝撃を与えた研究結果がある。METRが実施した無作為対照試験では、AIツールを使用した経験豊富な開発者はタスク完了に19%長い時間がかかったという結果が出た。開発者自身は「24%速くなる」と予測し、終了後も「20%速くなった」と感じていたにもかかわらずだ。知覚と実測値のギャップは43ポイントにもなる。

さらに今年2月、METRがフォローアップ研究を試みたところ、開発者がAIなしでの作業を拒否するケースが増加し、実験自体が困難になったという。

本当の問題:梯子に踏み台がない

Allanが最も強調するのは、コードの生成量ではなく「構造的問題」だ。

Amodei自身も「プログラマーは全体的な設計、コードの協調関係、セキュリティの妥当性を判断する必要がある」と述べ、コードを「書くこと」と「エンジニアリング」を切り分けている。しかし問題は、つい最近までコードを書くことこそがエンジニアリングを学ぶ手段だったという点だ。

バグを自分で直し、地味な実装タスクをこなし、コードレビューで叩かれる——そうした経験の積み重ねが、上級エンジニアに必要な「判断力」を育ててきた。AIがその部分を引き受けると、次世代エンジニアはどこでその能力を身につけるのか。

「梯子の踏み台が消えている」というAllanのメタファーは示唆に富む。問題はAIがコードを書くかどうかではなく、梯子を作った人々を生み出したプロセスそのものが失われつつあることだ。日本のIT業界でも若手育成の在り方を根本から見直す議論が急務と言えるだろう。


元記事: The ladder is missing rungs – Engineering Progression When AI Ate the Middle