AIの顔認識で無実の女性が5ヶ月拘束——米国で相次ぐ誤認逮捕の実態
米国テネシー州に住む50歳の女性、アンジェラ・リップス(Angela Lipps)さんが、AI顔認識ツールによる誤った識別をきっかけに逮捕され、5ヶ月以上にわたって拘置されるという深刻な冤罪事件が明らかになった。
事件の経緯
2025年7月、ノースダコタ州ファーゴ周辺で複数の銀行詐欺事件が発生。捜査当局はその容疑者の特定に際し、隣接するウェストファーゴ警察が導入していたAI顔認識システムを利用した。このシステムは、SNSを含むインターネット上から数十億枚の画像を収集したデータベースを持つスタートアップ企業「Clearview AI」が提供するものだった。
ウェストファーゴ警察によると、Clearview AIは「アンジェラ・リップスと類似した特徴を持つ候補者」を識別。この結果がファーゴ警察に共有されたことで、テネシー州在住のリップスさんを指す逮捕状が発行された。しかし彼女は、事件が起きたノースダコタ州に行ったことすらなかったと主張している。
リップスさんは7月14日にテネシー州で逮捕され、3ヶ月以上テネシー州の拘置所に収容された後、ノースダコタ州に移送。重罪窃盗や個人情報の不正利用などの複数の容疑をかけられ、合計で5ヶ月以上の拘束を余儀なくされた。
警察側の対応と問題点
ファーゴ警察署長のデイブ・ジボルスキ(Dave Zibolski)氏はCNNの取材に対し、「ウェストファーゴがAI顔認識システムを独自購入していたことを幹部レベルでは把握していなかった。把握していれば使用を許可しなかった」と述べ、現在は同システムの使用を禁止していることを明らかにした。
同氏は「捜査において一定の誤りがあった」と認めたものの、直接的な謝罪には至っていない。
AI顔認識の精度問題と人権リスク
この事件はAI顔認識技術が孕む深刻なリスクを改めて浮き彫りにした。米国では他にも類似の誤認逮捕事例が報告されており、特に特定の人種・性別に対して識別精度が低下するという研究結果も複数存在する。
Clearview AIは企業・政府機関向けに顔認識サービスを提供する企業で、日本を含む各国でプライバシー法違反として調査・制裁を受けた経緯がある。EUではGDPR違反として制裁金が科されたケースもある。
日本への示唆
日本でも警察や自治体によるAI・カメラ活用が広がりつつある中、識別精度の検証プロセスや使用ガイドラインの整備、そして冤罪防止のための制度設計が急務となっている。AI技術は犯罪捜査を効率化する一方で、誤用・過信によって無実の市民が甚大な被害を受けるリスクがあることを、本事件は改めて示している。
リップスさんは最終的に全ての容疑が取り下げられ釈放されたが、5ヶ月以上を拘束されたことによる精神的・社会的ダメージは計り知れない。
元記事: Police used AI facial recognition to wrongly arrest TN woman for crimes in ND