チューリング賞受賞者が描く「次世代AI」——LLMを超えるワールドモデルとは

MetaのチーフAIサイエンティストとして知られるYann LeCun氏が設立した新スタートアップ「Advanced Machine Intelligence(AMI)Labs」が、シードラウンドで10億3,000万ドル(約1,500億円)の資金調達に成功した。欧州のスタートアップ史上最大規模のシードラウンドとして記録を塗り替えた今回の調達では、評価額は35億ドル(約5,000億円)に達している。

NvidiaやBezosも支援——錚々たる投資陣が集結

今回の調達には、AIチップ大手のNvidia、Amazon創業者ジェフ・ベゾス氏の投資ファンド「Bezos Expeditions」、シンガポールの政府系ファンド「Temasek」など、テック・投資業界の重要プレイヤーが名を連ねた。パリを拠点とするAMI Labsは、深層学習の父の一人として知られるLeCun氏の「LLMへの根本的な批判」を実装する場として注目を集めている。

LLMではなく「ワールドモデル」——LeCunが否定するテキスト予測の限界

AMI Labsが開発するのは「ワールドモデル(World Models)」と呼ばれる新しいAIアーキテクチャだ。ChatGPTやGeminiに代表される大規模言語モデル(LLM)がテキストの次のトークンを予測することで動作するのに対し、ワールドモデルは物理世界の法則そのものを学習・理解することを目指す。

LeCun氏はかねてより「LLMは人間レベルの知能に到達できない」と主張してきた。人間の子供が少ない経験から物理的な因果関係を素早く学習できるのに対し、LLMはテキストという間接的な情報だけを処理するため、世界の真の理解には本質的な限界があるという立場だ。ワールドモデルはこの批判を具体的な代替アーキテクチャとして実装しようとするものであり、AI研究コミュニティ内でも賛否両論を巻き起こしている。

ターゲットはロボティクス・医療・製造——「使えるAI」の実装へ

AMI Labsが注力するのは、ロボティクス、ヘルスケア、製造業への実用応用だ。これらの分野では、物理的な環境の理解や因果推論が不可欠であり、テキスト生成を得意とするLLMが苦手とする領域でもある。

日本においても製造業のAI活用は重要課題となっており、工場自動化やロボット制御での高精度な物理モデリングへの需要は高い。AMI Labsのアプローチが実用化されれば、「LLMが使えなかった現場」に新たな可能性をもたらす可能性がある。

AI業界の構造変化を示す10億ドルの賭け

今回の資金調達は、AI業界が「より賢いLLMを作る競争」から「LLMの根本的な限界を乗り越える研究」へとシフトしつつあることを象徴している。OpenAI、Google、Anthropicが巨大な資金でLLMの高度化を追求する一方で、AIの「次のパラダイム」を模索する動きが加速している。

チューリング賞受賞者が設立し、Nvidiaが投資するスタートアップが「LLMでは不十分だ」というテーゼを掲げて欧州から挑む——この10億ドルの賭けの行方は、今後数年のAI研究の方向性に大きな影響を与えるだろう。


元記事: Yann LeCun’s AMI Labs raises $1.03 billion seed round for ‘world models’