AIの話題、もういいかな?
Hacker Newsに投稿された一本のブログ記事が、技術者コミュニティで静かな共感を呼んでいる。著者のJake Saunders氏は率直に告白する——「AIについて話すのに、正直飽きてきた」と。
同氏はAI自体を否定しているわけではない。毎日使い、生産性が劇的に向上したことも認めている。新しいドメインの仕事に就いた際、AIのおかげで数週間で立ち上がれたという実体験も持つ。問題は、AIそのものではなく、それ「について」話すことが目的化してしまっている現状だ。
「ハンマーの話しかしない大工たち」
Saunders氏は面白いたとえを使う。木工のSubredditを開いたら、みんなが作った家具の写真を投稿するのをやめて、使っているハンマーの話ばかりするようになった——しかも全員がほぼ同じハンマーを同じ使い方で使いながら。
これはHacker Newsにも当てはまる、と同氏は言う。かつては多様なプロジェクトや解決された問題が溢れていたが、今や「自分のClaude Codeワークフロー」の記事が似たような内容で量産されている。
日本のエンジニアコミュニティにも同様の傾向は見られる。QiitaやZennを開けば、LLMのプロンプトエンジニアリングやCopilot系ツールの比較記事が検索上位を独占している光景は珍しくない。
「プロダクトエンジニア」から「AIエンジニア」へ——退化?
2023年ごろ、「プロダクトエンジニア」という概念が注目を集めた。コードではなく、プロダクトが生み出す価値に obsess(執着)しようという考え方だ。Saunders氏はこれを「理にかなっている」と歓迎していた。
ところが今、エンジニアが obsess するのはコードでもプロダクト価値でもなく、「コードを書く部分を楽にするためのツール」になってしまった——と同氏は嘆く。
経営層の参入という新たな問題
事態をさらに複雑にするのが、マネジメント層の関与だ。かつて上司はデータベース技術やIDEには無関心で、「機能を作って売る」ことだけを気にしていた。ところが今回は違う。多くの企業が「AIをもっと活用する」という目標を個人のKPIに組み込んでいる。
DORAメトリクスのようなデプロイ頻度や障害復旧時間といったアウトプット指標ではなく、「1開発者あたりのトークン使用量」を測定し始めている——これはコード行数を生産性指標にするのと同じくらい意味がない、とSaunders氏は指摘する。
本当に大事なこと
同氏の主張はシンプルだ。ツールではなく、それで何を作ったかを語ってほしい。 コーディングという行為の本質は、誰かに価値を届けるものを作ること。それはいつの時代も変わらない。
この記事はHacker Newsで175ポイントを獲得し、95件のコメントが寄せられた。「AIに疲れた」という投稿がAIの話題として拡散されるという皮肉な構図も、同氏自身が「painfully aware(痛いほど分かってる)」と自嘲している。
AIブームの熱狂の中で、「道具ではなく作品を見せろ」というエンジニアの原点回帰的な声は、今後ますます重みを増していくかもしれない。